２０１２年 ４月 ２９日
ビートルズを拒否した時代
自分には記憶が無いのですが、物心つく前ぐらいの頃、私は中尾ミエの「可愛いベイビー」(62)ばかり歌っていたそうです。後年、そんな話を聞いて、なるほど．．と思いましたが。
歌謡曲っていわゆる歌の本格派とはちょっと違う気がしており、つまり模倣や偽者の要素なども巻き込みながら何かえも言われぬ匂いを放つ。いんちきな部分さえ魅力という。こんなこと言ったら歌ってる本人には失礼このうえないでしょうが。私はそんな強烈な歌謡曲の匂いを一番放っている人だと、中尾ミエさんのことを思っていて、好きなんです。
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中尾ミエ 「忘れさせて」 （詞：安井かずみ 曲：宮川 泰 編曲：宮川 泰 １９６５）
この曲は「淋しいから」のＢ面の曲なので、ＣＤ化もされておらず、何とか頑張って中古で７ｉｎｃｈシングル買いました。
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岡崎友紀 「愛々時代」（詞：阿久 悠 曲：三木たかし 編曲：三木たかし １９７４）
岡崎友紀さんと小川美潮さんは似ているところがあることに、今更ですが気づきました。
（いや、たぶん、もっと前から気づいていたんでしょう）
岡崎友紀といえば筒美京平、荒井由実、加藤和彦となりますが、実は一時期三木たかしに集中した頃もあるのです。この頃の曲がまた素晴らしい。
もう１曲 「何故行くの」（詞：阿久 悠 曲：三木たかし 編曲：三木たかし １９７４）
http://www.youtube.com/watch?v=edmD9D-FyUM&feature=related
私にとって、歌謡曲は黛 ジュンが基準になっているので、歌謡曲を定義するとなると、黛 ジュン的な音楽を指すことになります。これを説明するのは難しいですが、この人は中尾ミエらと同じ時代に渡辺順子の名で歌手デビュー（６４年）していて、一旦消え、６７年に黛
ジュンと改名し「恋のハレルヤ」をヒットさせます。ＧＳの盛り上がるちょっと前ぐらいでしょうか。米軍キャンプ巡りに間に合った（？）最後の方の世代で、ＧＳへと繋がっていく。歌謡曲が最もパワーアップした時代なのですが、この時代は解釈によってだいぶ変わってきます。６４年、６６年とビートルズがアメリカ上陸、日本上陸を果たす時期で旋風が巻き起こったのは間違いないと思いますが、片岡義男のように６０年代になってつまらなくなり、ビートルズで駄目になったと感じている人もいれば、亀和田武のように、「オレが好きな曲は、ビートルズと入れ替わりにヒットパレードから消えていった曲たちなんだよ」という人もいる。（『１９６３年のルイジアナ・ママ』異聞 君はあの年、ワタナベジュンコを見たか？）
私は最近、このビートルズを拒否した人たちが気になっている。
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黛 ジュン 「秋風のバラード（夕月）」（詞：なかにし礼 曲：三木たかし 編曲：三木たかし １９６８）
２０１２年 ４月 ２８日
じわじわ語りだしていく
アナーキーと称した上での１９５９年から１９７９年の日本の映画をセレクトした本が出て、これはよくあるベスト１０本とは異なる意図を目指しているのだけど、結果的には現時点での王道的なプログラム・ピクチャーの代表作をまとめたものになっていて、先を見据えるよりはあくまでも現在の状況を最大公約数的に判断した映画を並べているに過ぎない。
そうした中で、何故、中平 康の「月曜日のユカ」（６４）が表紙になるのかといぶかしむ、そんな思いにとらわれるところもあるわずかな歪（いびつ）さが面白い。
だがしかし、残念ながら、雑誌「映画論叢 第２９号」で、中田康子のインタビューが行われ、近年、彼女の後期の作品である島 耕二監督の「アスファルト・ガール」が再評価されているという文を目にするような何かが変わろうとする（変わらないかもしれないけれども）ワクワク感はこのアナーキーと称する本は提供してくれない。（ただし、この本の中にも「アスファルト・ガール」についての紹介文はある。やはり、じわじわ来ているのだろうか？）
「映画論叢 第２９号」 (国書刊行会)
さすがにしっかりしているという点では、山本薩夫を偏愛することが可能であることを示す気配りや、ある意味、当時一世を風靡（？）したのかもしれないATG映画における斎藤耕一の「旅の重さ」（７２）や「津軽じょんがら節」（７３）を、クロード・ルルーシュ的に上っ面だけのスタイリストと揶揄しながらも、それ故に珍重しなければならぬかのように書かずにはいられない姿勢を隠さないところなどは、押さえるところは押さえ、ツボを外さない手堅さがあって、何やらひどく権威的にまとまっている。（書いているのは両者とも樋口尚文）
山本薩夫や斎藤耕一に対してこの程度ならば書かないほうがマシな気がする。退屈な本に仕上がった。
中平 康に関しては、「月曜日のユカ」と「危（やば）いことなら銭になる」（６２）が紹介されている。ある種の権威によって、中平 康は評価されないように抑えられてきたので、２本も語られているのは、空気が変わりつつあることを示すが、要は後手を踏んでいるということだ。
東宝ニュー・アクションについては、添野知生が書いていた。そこらの評論家では書けないなと思うのは、「のちの「黄金のパートナー」を経て、テレビ「プロハンター」や「あぶない刑事」につながっていくコンビものの危ない原点は、西村監督の意識せざる深層心理にあったのかもしれない」というところで、当然のことながら西村 潔のような監督はTV番組までフォローはしておかないと語ったことにはならない。
「鮮烈！ アナーキー日本映画史 １９５９－１９７９」 (洋泉社 映画秘宝ｅｘ)
２０１２年 ４月 ２２日
俳優は裏切らない！？
「ＬＩＡＲ ＧＡＭＥ ザ・ファイナル・ステージ」 （２０１０年 日 ） 松山博昭 （録画）
田辺誠一という俳優が、一番芯の部分では善人という弱さを持っていることから逃れられないのは、彼のこれまでの作品を見ていれば容易に感じることである。エキセントリックな役や犯罪者や卑怯な人間、冷酷な人間など、いろいろ演じることはあっても、本質的にはこの人の俳優としての真骨頂はそこにあると思います。私はその田辺誠一の弱さが好きだし、彼はそれを演じたらもうこれこそ映画（ドラマ映像）だというしかない画（え）を見せてくれる。６０年代、７０年代、それより以前の時代、そして８０年代以降も優れた俳優はいて、例えば木村 功や高品 格、山本 圭や平田昭彦などなどなど．．．名優と呼びたくなる人たちがたくさんいる中に、田辺誠一の名を挙げることは何ら不自然ではない。
どうしても語り継ぎたくなる俳優もいれば、そうでない俳優もいる。田辺誠一はどうしても語り継ぎたくなる俳優です。
「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」はストーリーとしては、ラストに感動が来るほど善人を描いて破天荒になっているわけではない。巨額の賞金を前にして、どれだけ人間がひかえめな善人になれるのか、そこに興味を持って見ていて至福の達成感を得られるということもない。
しかし、本当に善人などいるのかと言ったら、最後に「悪くない」とつぶやく田辺誠一のはにかんだ笑顔こそはそれだというしかなく、この映画が善人の勝利にこだわっていたとするならば、達成したのはストーリーではなく、田辺誠一の笑顔をカメラにおさめたことの方にあるだろう。そして映画にとって重要なのは脚本がいかに素晴らしいか、ではなく、その画面をとらえてしまったことなのです。
（戸田恵梨香と違って本当にバカ正直に見える(?) 多部ちゃんにはキツそうなＧａｍｅですね）
２０１２年 ４月 ２１日
フランス映画 眠る
「ニコラ」 （１９９８年 仏 ） クロード・ミレール （ＤＶＤ）
クロード・ミレールが４月４日に亡くなりました。７０歳でした。
先鋭的というよりは古典的なドラマを撮ってきた監督で、例えば日本でいえば西河克己や澤井信一郎のタイプだと私は考えています。テーマとしては勅使河原宏や増村保造、後期の中平康のような心理劇を扱っていたと言えるかもしれません。
割と従来からある心理洞察の一般的常識から逸脱するようなことはなく、ある一定範囲内に留まった中でドラマは展開します。想像を超えるということがなく、思ったとおりの結末を迎える。
そこが、クロード・ミレールが世界で通用せず、フランスの良心的な中核監督としての評価から脱することが出来なかった原因だとは思いますが、映画はそこが問題なのではない。
ただ、“とんでもない話”というのを作ることが出来なかったのは、確かにそうだと思います。
「ニコラ」もアナクロニズムと思えるほど９８年の時点でかなり古い、７０年代によくあった心理劇のスタイルを踏襲していて、少年の妄想と現実が出入りを繰り返し、どこに現実があるのかわからなくなってくるような展開をしながら、それはあくまでも妄想と現実の限界を逸脱することはなく、一定のところまで行ったらちゃんと戻る。これを小説でやられたらかなり退屈なことになるかもしれません。
Ｗ・Ｗ・ジェイコブズの「猿の手」を読んだら・・・
ただし、映画ではそうではない。クロード・ミレールは「小さな泥棒」（８８）でそれを証明した作家です。なぜ「大人は判ってくれない」（５９）のトリュフォーのように語ることができないのか（「小さな泥棒」はトリュフォーの原作をミレールが映画化したもの）、しかし、決して突出したストーリーとはいえないものがどうして過激な映画（鮮烈な映画）となるのか、ミレールは「小さな泥棒」で自分なりの答えを出しました。ミレールにとっての過激とは何か？を強烈に印象付けたのが「小さな泥棒」のシャルロット・ゲインズブールです。日本では「早春物語」（８５）で早瀬優香子が「とろくさい」と思った、澤井信一郎演出による少女を演じた原田知世がいます。見た目の過激行為ではなく、一瞬の心の動きが、ミレールと澤井信一郎が描いたものだと思う。見た目には普通の行いでも、予想外な一瞬の動きは、全く異なるレイヤー（層）への飛躍となる場合がある。ミレールにとって重要な物語性というのはそこにあるのであって、題材はむしろありきたりでかまわないのです。むしろ平凡な登場人物を好みました。
「ニコラ」の少年は非常に動きが少なく、表情も乏しい。彼はしきりに夢想するのです。ミレールが描きたいのはその夢想の瑞々しさですが、夢想の内容自体は重苦しい、少年の気持を苛（さいな）む悪夢に近いものです。その悪夢の鮮烈さを映像化している。映像は古めかしいスタイルにのっとった画（え）ですが、それは「小さな泥棒」でもそうだったように、ミレールの映像は記憶を呼び覚ます方法であって、これをまさか新しいつもりでやっているわけではない。
古典なのに瑞々しい。ヌーヴェルヴァーグの勢いや溌剌さには欠けるのですが、精神性は映像の瑞々しさが引き継いでいます。ミレールは紛れもなくヌーヴェルヴァーグの末裔といえます。
謹んでご冥福をお祈りします。ただ、こういう古典的なスタイルの中に瑞々しい際立った生命力のようなものを表出できるような映画作家は、今後なかなか出て来ない気がして、ミレールの不在は残念でなりません。フランスは今一度原点を振り返るべきだと思いますが．．
２０１２年 ４月 １５日
愚直なまでのサッカー少年という雰囲気だ
クライマックスの感動場面とは違う何でもない場面を読んでいて涙が出てきてしまうと、書店のポップの中で見つけたんだったか．．それがちょっと引っ掛かって読むことにしてみたら、本当に何でもない場面で泣けてきた。
川端裕人は最初ちょっとＳＦ畑の作家かなとデビュー当時に思ったのを覚えている。必ずしも題材はＳＦではないんだけれども、斜に構えて典型的なジャンルを外すというか、オルタナティヴ路線というか、ずっと気にはなっていたのだけど、最初に読んだのがどういうわけか、ノンフィクションの『クジラを捕って、考えた』で、これは何故か単行本で買って、９４年頃だと思うけれど、実はこの本は小説を書く前の仕事だった。捕鯨船に乗ってルポするもので、本人も頑張って公平に客観的な立場で接しようとしているのだけど、どうにもクジラを動物として好きで、出来れば殺したくないと考えているのが文章の端々に出てしまっていて、感情的な部分があると言わざるを得なかった。少し納得のいかない本で、それっきり読むことはなくなってしまい、要するに小説はついに１冊も読むことは無かった。
『銀河のワールドカップ』は小学生の草サッカーチームが少年サッカー大会に参加し、頂点に上り詰め、ついにはリーガ・エスパニョーラの銀河軍団との対決に挑む、途方もない夢物語である。一瞬でも気を抜けば、こんな馬鹿な話し、と気持はさーっと冷めていってしまうだろう。実際これをサッカーを時々見ることもあるなんて程度の人が読みきるのは大変に困難な読書になると思う。川端裕人はそういう意固地さがあって、読者を選ぶかもしれない。
しかし、サッカー好きには堪えられない小説である。へたっぴいや素人と抜群のセンスの選手を一つのチームに押し込め、のし上がっていくスポーツ・ドラマの一つの形。この小説の主人公たちのサッカー・チームには、とんでもなくサッカーが上手い三人兄弟と、寡黙で一匹狼的なドリブル・ストライカー、それにドロップ・アウトしていた酒飲みサッカー・コーチと役者が揃っている。面白いのはそこに技術は平凡だが、サッカー馬鹿で、チームの接着剤となる、今の日本代表で言えば、決してスーパーではないがなくてはならない存在の長谷部みたいな役割である太田翼がいることで、これは川端や私のような年代でいうと、ちばあきおの野球漫画『キャプテン』における谷口ということになる。さらにこのチームには女の子が二人（！）いる。俊足・俊英の高遠エリカとほぼ素人の西園寺玲華だ。紅一点というのが通常の形だけど、この小説では西園寺玲華が意外性をはらむユニークな役割でプラスされており新しい。
川端裕人に対して想像していたオルタナティヴな姿勢は、この小説をかなりの部分、ひたすら試合中継で埋めてしまったという描写の意表を突いた過激さに出ていると思う。マンガでは十分有り得るが、小説でここまで試合実況が比重を占めるのはさすがに珍しいのではないか。マンガを文章にしたというか、そうだとしても、この翻訳ぶりの興奮度合いは異常である。選手たちがグラウンドを走り回るそのフォーメーションは現在のバルセロナを目指すかのようなＦＲＥＥの状態だ。つまり、サッカーのフォーメーションの好みからして、オルタナティヴなのだ。子供が主役だからって品行方正なわけでもなく、相手に汚い言葉をささやいたり、オウン・ゴールを誘うプレイを得意技にしていたり、サッカー好きはこれぐらいのダーティーさは許容範囲内である。そこを含めてサッカーを楽しむ姿勢が小説に反映されている。
特に教訓めいたものも無い。ＮＨＫでアニメになっているようだが、古臭い認識のままのＮＨＫならば小説には存在していない“子供らしい道徳観”を自分たちで作って挿入するしかなくなるだろう。最近のＮＨＫはさばけたところもあるので、そのままアニメ化しているかもしれないが。
川端裕人 『銀河のワールドカップ』 (集英社文庫)
２０１２年 ４月 １４日
結局、説明できていないのだが
当時のことをリアルタイムで体験していれば、言葉では説明できないけど、感覚的にわかってもらえる筈。逆に当時のことを知らない人にはこのニュアンスはなかなかわかってもらえないだろう。
言葉で説明できず、リアルタイムの重要性をほのめかし、同時代性で共感のなかに括ろうとする。
その時代を知らない人間にはそれらは何の説明にもなっていないし、到底理解も出来ないし納得もできない。
その時代を生きた人間にしかわからないのだ（だからそうでないお前にはわからないだろう）と言いたげ。そんな風に言われても、現にその当時を知らない人間からすれば、「はい、そうですか。そう思うならそう思っていればいいんじゃないですか？ こちらには一向に何を言っているのかわかりませんけども」とでも答えておくしかない。
ＰＩＬ（パブリック・イメージ・リミテッド）が新譜を発表するらしい。「メタル・ボックス」を出した頃（７９年）のＰＩＬをリアルタイムでは知らない、２１世紀に入ってから洋楽を聴くようになったというような年代の人たちはＰＩＬの音楽を聴いてどう思うだろうか？
世代論で逃げたくないとは思いながら、さてどう説明しようかなどと考えると、巷の音楽雑誌などに書いてあるパンク/ニュー・ウェイヴ、ポスト・パンクの時代のありふれた時代背景の説明以外に、もっと違う何か独自の言葉をひねりだそうとしても、そうはなかなか浮かんでくるものではない。
私はよくワイヤーが言ったという「ロックでなければ何でもいい」という言葉をつい引用してしまうし、サエキけんぞうの言う「ニュー・ウェイヴでなければ意味が無い」時代という説明にも共感してしまうのだが、おそらくそれではＰＩＬを説明したことにはならないと思うのだ。
ところで、ＰＩＬの新譜はまだだが、ジャー・ウォーブルとキース・レヴィンのコンビとなるＥＰ盤が発売された。４曲入りで、ナンバーが振ってある。私のは７００分の２３９番だった。
このシングルが素晴らしい。どう素晴らしいと説明すればいいのか、これもまた非常に難しいのだが、やはり、残念ながらこれはあの８０年頃の状況を知っていると知っていないでは受け取るものがだいぶ違うと言わざるを得ないのだ。それではまるっきり冒頭の逃げ口上をここでも繰り出したということにしかならない。どこが素晴らしいんだかまるで説明になっていない。
ひとつ言えば、彼らは上手く立ち回らないということだ。今、音楽はこれだけ進んでいるから進んでいるだけのことは提示するようにする。それ以上、またはそれ以外のことをすると聴く側を戸惑わせることになるからやらないでおく―――そういう考え方は二人はしないのだ。やらないので「えっ、こんだけのことしかしないの？」と言われかねないが、二人はあくまでも二人にとって必要だと思うことしかやらないのであって、それ以外の配慮はしない。彼らは出したくない音は出さないのだ。
最近ＰＩＬやポップ・グループ、ギャング・オブ・フォーなどが復活したりして、メンバーの容姿の変貌や、そのサウンドの生ぬるさに軽い失望をおぼえることもないこともないのだが、ふと気づいたのは彼らのサウンドが本質的には変わっていないということ。つまり、好きじゃない音は（要するに７０年代的な音、翻って９０年代以降の音）相変わらず使っていないということだ。彼らは本当に嫌いなのである。
どうしてそこまで嫌いなのだかわからないが、その嫌いさ加減が説明しにくい。どうしてそこまで嫌う必要があるのか．．．
ただ、ジャー・ウォーブル＆キース・レヴィンの曲は、存分にその思いを遂げた音を開放してくれているのだ。「本当に死んでもここまでしかやる気はないんだね」
Ｊａｈ Ｗｏｂｂｌｅ ＆Ｋｅｉｔｈ Ｌｅｖｅｎｅ 「ＥＰ」 (2012) ジャケット表面はサンド・ペーパー状
２０１２年 ４月 ８日
手にとってしまう場合
どうも何か上手いこと着地してしまっているように見える甘酸っぱい短詩や短歌など苦手です。
枡野浩一、穂村 弘．．．
自分が手に取らない類のもの、というだけです。 別に良いとか悪いとかは考えません。
ただ、手にとってしまう場合があるのです。
穂村 弘の『ぼくの宝物絵本』は面白かった。好きな絵本を紹介していて、かなり古い本から新しい本まで、海外作家の絵本も日本のものもさして区別なくあり（ただ区別はしてないが国内の絵本が多い）、有名作家もいれば異色（異業種）の人のも載っています。水彩画や写真コラージュ、幾何模様的デザイン画などから、かなり不可思議なストーリーものまで、ちょっと王道を外している感じ、一方で逆に王道をがちっと押さえる（谷川俊太郎、長 新太）ところにも丹念に作品を選んでいるのがよく読み取れる。この人は私より二歳上で、「キンダーブック」あたりが出発点になっており、どちらかというと古いタイプにモダンさを感じる方の人で、自分も近いタイプなので合いました。
挿絵が大きく、豊富に収録されており、何度でもパラパラめくってみたくなる本です。
穂村 弘 『ぼくの宝物絵本』 （白泉社）
枡野浩一も普段は手にとって見ることなどないのですが、本の表紙の写真が気になってしまいました。
日常的な街の造形をそのまま切り取っただけのような写真が好きなのです。写真が良かったので買いました。結局、中に載ってる短歌はほぼ全く興味が沸かなかった。
写真を撮っていたのは杉田協士という人。調べてみたら写真家というより、映画監督を目指しているようで、黒沢 清、青山真治、熊沢尚人、篠崎 誠などといっしょに仕事をしていたのだった。もう直ぐ長編映画が公開されるらしいのですが、こういう写真を好んで撮る監督ならば是非見てみたいという気持になりました。
枡野浩一 短歌/杉田協士 写真 『歌 ロングロングショートソングロングﾞ』 （雷鳥社）
２０１２年 ４月 ７日
リーズの民俗音楽であるソリッド・ギター・サウンドのきわみ ウェディング・プレゼント新作
１９８５年のデビュー以来、２７年を経てのウェディング・プレゼント ８枚目のフル・オリジナル・アルバム。
尋常ではないテンションと力強さで最高傑作といっていい内容に仕上がった。２７年でまだ上へ上へ行こうとするこの異常な強度！ このバンドはおそらく１９９１年の「Ｓｅａｍｏｎｓｔｅｒｓ」でスティーヴ・アルビニを吸収し尽くしただけでなく、アルビニを超えてしまっていたんですね。アルビニが出したかった音の理想の上をもうウェディング・プレゼントは行ってしまっているのではないでしょうか。
ソリッドであることとそれがウォール・オブ・サウンドを成すことはアメリカでは難しい。勿論アルビニにとってはそれをアメリカで達成することこそが重要（つまりサウンドの中に混沌を内包したままでソリッドであること。ベルベット・アンダーグラウンドとストゥージズそれぞれが部分的には持っているが融合できない要素。アルビニはそこにイギリスのナイフのシャワーのような切っ先を持ち込もうとした。それを逆の立場でやろうとしたのがマイ・ブラッディ・バレンタインだと思う。マイ・ブラッディ・バレンタインは放っておいてもソリッドさは出せたがそこにサイケデリックの中のアメリカ的な混沌を盛り込むのに苦労した。）だったのだが、ソリッドさをハーモニーにすることが出来なかった。
これをハーモニーで奏でることが出来たのはマイ・ブラッディ・バレンタインではなく、ウェディング・プレゼントであると私は思います。
ウェディング・プレゼントはサイケデリックな音は希薄なため、アルビニやマイ・ブラッディ・バレンタインがめざした音の完成形ではないのですが、両者が出来なかったハーモニーを達成出来たのはウェディング・プレゼントだけであり、これはベルベッツもストゥージズも出来なかった。
フィル・スペクターを考えると、モノラルで重ね録りしたバック・トゥ・ＭＯＮＯの考え方はアメリカの混沌そのものだと思う。後年ビートルズを受け持ったがスペクターがイギリスの音を摑めたかというとどうも違う気がする。ビートルズ（ハリスン、レノン）にもたらしたものはあったかもしれないが、スペクターがビートルズから得たものは無かったのではないか？ 近年ＳＴＡＲＳＡＩＬＯＲをプロデュースした事があったが特に何かが生まれたということはなかった。
ウェディング・プレゼントは、スペクターでは出来ない事をイギリス人でなら可能になることを実践することが出来たのではないか。確かに混沌の部分を抜いてしまったら最早アメリカの要素は希薄もいいところで、別物と言わざるを得ないところもあるのだが、これはビートルズですら成しえなかった事なのである。
しかも、実にリーズ出身であるデヴィッド・ゲッジからすれば、これはドクター・フィールグッド（ウィルコ・ジョンソン）影響下にある（ドクター・フィールグッドはリーズ出身ではない）ギャング・オブ・フォー、ミーコンズらの伝統的なパンパンにはちきれたソリッドなギターの電気音をここまで押し進めてきた地域的な民俗音楽のサウンドでもある。
Ｔｈｅ Ｗｅｄｄｉｎｇ Ｐｒｅｓｅｎｔ 「Ｖａｌｅｎｔｉｎａ」 (2012)
２０１２年 ４月 １日
あっけなさこそがノワールを決定付ける ～構図への切り替え
「殺し屋は放たれた」 （１９５６年 米 ） バッド・ベティカー （録画）
構図の美学というか、たぶん５０年代のフィルム・ノワールを撮っていたようなスタッフたちは、デザインに対しての好き嫌いというのもはっきりしていたのだろう。当時におけるモダンなデザイン、いや今見てもモダンなデザインなのだが、街の看板や標識のロゴ・デザイン、それを画面の中に配置するのも作り手は丹念に選んでいる。しばしば、風景を見ているだけでもこの時代の映画は楽しい。
バッド・ベティカーもかなりデザインに関してはスタイリッシュなのかもしれない。ただそのスタイリッシュさというのは、それを見せびらかすためにあるのではなく、ストーリー運びの中で機能している。
例えばジョニー・トーがそれを継承しているとしても、既に蓄積量が多くて、引用が散漫になっている。「殺し屋は放たれた」では、カッコはつけていてもそのシャープさはあっけなさで貫かれている。ひけらかしたいところをあっさりやるというのは我慢が要る。フィルム・ノワールにそれが出来たのは、ストーリー自体が犯罪実話的で、スタイリッシュなフィクションでありながら、その精神がドキュメンタリーへの志向を孕んでいたからではないかと思う。
刑事が犯人を自宅の部屋に追い詰め、ドアを壊し飛び込もうとしている。突然室内から銃撃され、刑事の一人が肩を撃たれて回転するように廊下の壁まで吹っ飛ぶ。この回転は綺麗に形が出来ており、アクションのデザインであると言うしかない。しかし、廊下の壁まで後退した二人の刑事は、画面の中の中心からズレたやや右側に位置取りされ、たちまちドキュメント的な事件場面のひとこまの中の一部にしか過ぎない立場に溶け込んでしまう。この切り替えの速さやシャープさが、バッド・ベティカーの特色ではないかと思う。
最後、刑事への恨みから脱走して来る犯人は、刑事の自宅の庭へと走りこみ、そこで銃撃戦となる。
とはいえ、一瞬のことではあるが、この庭を中心として、犯人と、狙われている刑事の妻を横軸に、垂直方向に家の中の刑事と、家の向かい側で張り込んでいた警察が、妻が走り出すと同時に一気に動き出す。そしてそこでは銃声と火花と煙が交錯するのみで、射撃する人間の姿など入り込む余地はない。これは、庭を中心とする画面構図とその周囲で起こっていたアクションを説明過多に語ることなく、むしろ、火花と煙を中心に据えたら、人間の動きは逆に見せないようにしようという直線（銃弾）と曲線（犯人は左から走りこみ、刑事の妻は右から走りこみ、刑事は家の部屋から玄関へと横移動し、警察はぐるりと取り囲もうとする － そういう動きの気配、空気は十分に画面に息づいている）のデザインとなっている。
正しいとかリアルであるということよりも、このアクションと構図のデザインが惚れ惚れするほど素晴らしいというしかなく、そして結局、その中心には犯人の姿が残る。
この犯人は、脱走の道のりの間に何人も殺し、刑事の家に復讐に現れる頃には疲れてしまっていた。そして庭の真ん中に虫がうずくまるように倒れ伏す。同情もないが、突き放すわけでもない。状況があるだけ。ただ、その状況をカメラは一心に見つめるのだ。状況を捉え損ねることだけはあってはならないと、そこに映画は集中しているのである。
２０１２年 ３月 ３１日
ＧＳの見直しはザ・ラヴからもう一度始まる
２００７年に初版が出てからなかなか手に入りにくい状態になっていました黒沢 進・著による『日本ロック紀ＧＳ編 コンプリート』が去年の１１月に３刷めが出まして、私もやっと買うことが出来ました。
それ以来、何度も何度も読み返しています。特に私の中ではＲＯＣＫと歌謡曲は密接に結びつくとともに、歌謡曲はＲＯＣＫから始まるという考えにとらわれ始めているので、この本におけるＧＳ（グループ・サウンズ）の成り立ちと変遷は興味深い。
というか、これでやっとグループ・サウンズを発見する（自分の中で）に至りました。
黒沢 進 『日本ロック紀GS編 コンプリート』 （シンコー・ミュージック・エンタテイメント）
そもそもは、私の場合は１９６８年で４歳ですから、実はＧＳには全然間に合っていない。音楽（歌謡曲）を自分でも認識しながら聴くようになった（ＴＶで歌番組を見るようになった）のは恐らくいしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」からだ（１９６８年１２月２５日発売らしいから、その頃ですね）から、ＧＳの絶頂期は過ぎているし、その年齢ではＧＳは「ブルー・シャトウ」（１９６７年 ブルー・コメッツ）、「夕陽が泣いている」（１９６６年 スパイダース）ぐらいの大ヒット曲しか届いていない。「思い出の渚」（１９６６年ワイルド・ワンズ）なんかは気がついたらもう最初から懐メロになっていたと思う。
８０年代半ばあたりにファントム・ギフトやコレクターズなどがネオＧＳと呼ばれて話題になったことがあったが、私はあまりぴんと来なくて、当時はそんなに聴いていない。
９０年代に入って、カルトＧＳなる言葉が出始める。海外で日本のグループ・サウンズがガレージ・サウンドとして紹介されるようになり、ＧＳの最盛期にはさほど話題にならなかったバンドや曲が認識あらたにパンクやモンド・ミュージックを通過してきた耳にうったえるようになってきて、新しい世代に「発見」されるようになってきたのである。
私はそこでアウト・キャストに出会った。ガレージ・バンド的なサウンドも持ちつつ、ティーンエイジ・ポップス特有の不安定な心理状態や甘ったるさをこのバンドはかもしだしていて、私にとってアウト・キャストはルースターズと同じ匂いを放つバンドだったのだ。
アウト・キャストの曲は夢中で聴いたが、しかし、それ以外は特に深入りすることはなかった。
最近になって、Ｔｈｅ Ｌｏｖｅ というバンドの「イカルスの星」（６９年）という曲をたまたま知って驚いた。
「えっ、こんな凄い曲があったのか！」 まあ、「イカルスの星」を聴いて「凄い」という表現はあまり使われないかもしれないが、どんなにガレージ臭かったりサイケデリックだったり、ラウドだったり、卓越した演奏能力だったり、アンダーグラウンドな匂いを放っていたりするよりも、自分にとってはこの日本的な甘ったるい歌謡ＲＯＣＫ曲の方が有り得ないぐらいとんでもなかったのだ。
調べてみたら、Ｔｈｅ Ｌｏｖｅはアウトキャストから派生したバンドであった。アウト・キャストから派生したバンドにはアダムスもいるのだが、これがまた素晴らしい。私にとってアウト・キャストこそは自分の好きな音楽の根元に位置しているではないかと、急速に周辺に対して興味が沸いてきた。（穂口雄右や水谷公生、轟健二らがキャンディーズのブレーンであったこともより重要性を増してきた）
ＧＳは６８年に入って衰退期に入ってくると、歌謡曲化やムード歌謡化が進み、一方でウッド・ストックの評判を経てサイケやニュー・ロックへ本格に傾倒していくロック派がＧＳから離れていくようになる。末期的症状を迎えていたようにかつては考えられていたようなのだが、実際に聴いてみたら、この時期に良い音楽はけっこう多かった。ビートルズなどのブリティッシュ系の端正なビート・ロックが基本にあった６６～６７年あたりのＧＳに比べると、腐ったような甘さを放ってはいるけれど、私はやっぱり日本はこれだな、と思う。タイガースやオックス、スパイダースとかは甘いといってもプロダクション的には割りとかっちりと出来ていて崩れていない。しかし、６８年に至った第３世代的なGSは心地良く崩れている。
黒沢 進氏はジャックスが一番重要であると考えているような人で、ビージーズが日本に入ってきてＧＳがかなり駄目になったという認識があるらしく、思いの外、ビージーズは日本で影響が大きかったらしいことがうかがわれる（後の世代には、なかなかこういうビージーズやウォーカー・ブラザーズが日本で異常人気だったことが感覚的に受け入れにくい）。私はしかし、日本のＧＳは、それなりにちょっと特殊なところがあると思うのだ。そこがまだはっきりと見えて来ないのだけど、ＧＳは日本の音楽において、単なる洋楽の受け皿としての大きなムーブメントとしてあるだけでなく、独自の発展をする重要な分岐点にある気がする。
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アダムス「眠れる乙女」（６８年１２月 詞：山上路夫 曲：村井邦彦） これは中古シングル・レコードを最近買いました。２３００円。思わず持っていたいと感じるようなジャケットで、我慢できませんでした。メンバーは水谷公生、轟 健二ら。元アウト・キャスト
ブルー・シャルム「ハイウェー・ラブ」（６９年８月 詞：伊東牧夫 曲：安藤邦夫）これもジャケットがそそる。メンバーに後の作曲家 馬飼野康二がいた。
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ザ・サマーズ「たった一言」（６８年１０月 詞：沢ケンジ 曲：沢ケンジ）北海道ローカル系のＧＳだったらしい。何でガレージなのにロマン歌謡的匂いを放ち始めたのだろうか？
ダイナマイツ「大人の戦争」（６８年３月 詞：橋本 淳 曲：すぎやまこういち）ガレージっぽいＧＳとしては私はダイナマイツが一番好きです。 山口富士夫、瀬川 洋らがいたバンド。すぎやまこういちもＧＳの作曲が多い。
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ズー・ニー・ヴー「ひとりの悲しみ」（７０年２月 詞：阿久 悠 曲：筒美京平） 尾崎紀世彦「また逢う日まで」（７１年）は、この曲を出し直したものだった。このバンドには町田義人がいた。「白いサンゴ礁」が有名。
タックスマン「恋よ恋よ恋よ」（６８年３月 ベルギ－のJess＆Jamesのヒット曲カバー）このバンドはGSの衰退を象徴するようなところがあるらしいが、相当に注目のバンド。レコードのジャケットもいい。メンバーの一人上月 潤はその後フラワー・トラヴェリン・バンドに参加する。
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ジ・エドワーズ「虹の砂浜」（６８年１０月 詞：林 春生 曲：筒美京平）大石吾朗（興石秀之）のいたバンド。といっても大石吾朗を知っている人がもう殆どいないでしょうが．．確かコッキーＰＯＰとかやっていたと思う。この人は元バニーズで、けっこうＧＳで実績残している人だったんですね。筒美先生もオックスよりもこれぐらいのクラスのバンドの方が冴え渡る。
ザ・ヤンガース「ジン・ジン・ジン」（６９年７月 詞：橋本 淳 曲：筒美京平）このバンドもタックスマンと同じく、ＧＳ末期に出てくる重要なバンド。当時はこういうバンドは二番煎じ扱いで見向きもされなかったりしたのでは．． ジョナサン・リッチマン風垢抜けないジャケットも最高。橋本＝筒美の黄金コンビの曲。
「マイ・ラブ・マイ・ラブ」というとてつもない名曲もある。ＧＳの最高峰の曲だと思う。曲を作ったのはメンバーの鈴木陽一だった。
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ザ・フィンガーズ「少女のソナタ」（６８年１１月 詞：なかにし礼 曲：村井邦彦）結局何だかんだいって、主要な歌謡曲の作詞作曲家は皆ＧＳを手掛けている。それがＧＳがイギリスやアメリカのように完全にＲＯＣＫへとはシフトしていかなかった原因かもしれないが、そこにこそ日本の最大の特徴もある。フィンガーズは成毛 滋がいたことで有名。実は高橋幸宏の兄 高橋信之もこのバンドにいた。初期はエレキ・インスト・バンドだったがＧＳの流れとともに変遷していく。中古レコードを見かけたが５０００円以上した。アルバムがＣＤ化されており、ボーナスでこうした甘ったるい後期のシングルが追加されていて、そちらが重要だ。
ブルー・インパルス「夜明けに消えた恋」（６８年１０月 詞：なかにし礼 曲：村井邦彦）デビューして直ぐさま悲惨なムード歌謡グループにシフトしていったらしいが、このバンドはイギリスのネオ・アコ第二世代（フレンズとかレイザー・カッツみたいな）のようなあっけなさが何とも抗いしがたい魅力を放っている。
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アウト・キャスト「レッツ・ゴー・オン・ザ・ビーチ」（６７年７月 詞：藤田浩一 曲：藤田浩一）アウト・キャストは６７年早々にデビューしているからＧＳの絶頂期のバンドに位置する。その中でもオリジナル曲を自分たちでも作っているし、アルバムもちゃんと出しているし、元々ＧＳとして大きな存在である。しかし、現在の評価以上に日本にとっては重要な存在だと思う。現象としてのＧＳならばタイガースやテンプターズ、スパイダース、オックス、ブルー・コメッツ、ワイルド・ワンズ．．となるだろうが、ＧＳの重要性はそこにはない。
ザ・ラヴ「ワンス・アゲイン」（６９年３月 詞：藤田浩一 曲：藤田浩一）何しろザ・ラブはシングル・レコード１枚のバンドである。「イカルスの星」は越路吹雪の曲であった。Ｂ面の曲は元アウト・キャストの藤田浩一が書いており、傑作である。ＧＳの最も特殊な部分がこの曲に備わっている。私はぶっ飛びました。
２０１２年 ３月 ２４日
西河克己版「伊豆の踊子」にひけをとらぬ 三村晴彦 １９９２年版を今こそ見たい
「伊豆の踊子」 （１９６３年 日 ） 西河克己 （DVD）
川端康成の『伊豆の踊子』は、これまで六度映画化されているようです。（TVドラマなどで他にもいろいろありますが）
１９３３年 五所平之助 監督 田中絹代 主演（２４歳）
１９５４年 野村芳太郎 監督 美空ひばり 主演（１７歳）
１９６０年 川頭義朗 監督 鰐淵晴子 主演（１５歳）
１９６３年 西河克己
監督 吉永小百合 主演（１８歳）
１９６７年 恩地日出夫 監督 内藤洋子 主演（１７歳）
１９７４年 西河克己 監督 山口百恵 主演（１５歳）
（ ）内は公開時の主演者の実年齢
西河克己のこの映画では、踊子の薫は１６歳で、まだ随分と子供っぽいところがある設定です。が、吉永小百合はこれまで演じてきた人の中では年齢的には高い方になりますね。他の作品を見ていないので何とも言えませんが、山口百恵が１５歳だというのは気にかかります。たぶん、薫という子は１６、１７よりは１４、１５の方が近いのではないかと思うのです。（小説では１４歳）
実は、１９９２年にTVドラマで三村晴彦が演出した「伊豆の踊子」があり、この時の薫は１４歳の設定で、演じた小田 茜は１３歳でした。
この小田 茜版の「伊豆の踊子」はYou Tubeにアップされています。全編がアップされていて、こういうことは珍しいと思うのですが、見始めたら止まらず、これがかなりの傑作で、埋もれさすには惜しい作品であり、こうしてYou
Tubeで見てもらいたいと思う人が出てくるのも無理もないと思いました。
（You Tubeで、「伊豆の踊子 １９９２」で検索すれば見つかります。ただ、こうやって紹介しても直ぐに消えてしまってたりしますが。紹介したりするから消えてしまうのか．．複雑な心境ですけども）
西河克己の切れ味のあるすっきりした演出も良いですが、三村版はじっくり時間をかけつつ、学生と薫の決して実ることの無い淡い恋を見事に画面で描ききっており、何気ない仕草がやたらと美しく、儚さがよく出ていて、決してひけをとらない内容です。（三村版は、西河の版を踏まえた上で、どちらかというと原作に忠実な脚本にしている）
酌婦の役で出ている後藤久美子が演技の方は拙（つたな）いところもあるのですが、異様に美しく、三村が、朝、死んでしまっている後藤の死に顔を思わず（？）画面におさめてしまった。後藤、小田、萩原聖人と非常に若い俳優で、原作には無い「どうして人は夢なんて見るのかしら」などと言わせてしまった三村版は、１９９２年には早過ぎた傑作であり、世相的には２０１０年代を迎えた今のほうがむしろ感に迫ってくるものがあって、踊子デビューという後戻りも出来ない夢の終わりをクライマックスに持って来たこのドラマには心を掻き毟るような狂おしさを覚えました。
私は、正直なところ、この１９９２年版「伊豆の踊子」が決定版だと思います。
ラスト・シーンでの薫の登場の仕方には震えました。突然突堤に飛び出してくるとは．． 三村晴彦すごいな、と思いました。しかも手に何も持っていないんですよね。原作では白いものを振っているとなっているんですが。「伊豆の踊子」で、このドラマの存在を外してはならないという気すらします。
つくづく思うのですが、萩原聖人という俳優は素晴らしい。森 雅之や佐田啓二のように歴史に名を刻むべき俳優だと思う。
なお、西河克己版「伊豆の踊子」は、日活のキャンペーンで廉価でDVDが出ていますが、解説を片岡義男が書いています。この人は不思議な存在で、ちょっと大滝詠一と似ているところもありますけども、近年は原 節子や日活映画などを考察した本をよく出しています。吉永小百合についても１９５９年デビューから１９６２年「キューポラのある街」までの２８本は全部見てみたと書いてある。「伊豆の踊子」は、その後の映画ですね。DVDはちょっとノイズが入っていて、HDリマスターにしてはいだけないと思いました。
２０１２年 ３月 ２０日
コルトレーンの読み直しにあるＪＡＺＺの未来形
問題提起というかはったりというか、雑誌には何か波風を立てるものがあって欲しい。捏造は行き過ぎだが、変化を読み取る、変化を想像することは少々根拠が薄弱であってもいい。研究発表の論文ではないのだから、ある程度はいい加減でも許されるのが雑誌だと思う。そのぶん、読む側は鵜呑みにするわけにはいかず、真偽を自らの思考で判断していかねばならないのだが。
波風をたてない雑誌などには何の魅力も無い。
ということで「ミュージック・マガジン」誌 ４月号は、菊地成孔特集だが特に何も言いたいことは無く、同じく菊地成孔が関わっているのでも、別の方の「KAWADE 夢ムック」ジョン・コルトレーンの特集本の方に目がいく。
これは単にジョン・コルトレーンを振りかえろうという企画ではなく、読み直しが迫られていることの報告である。コルトレーンといえばJAZZジャイアンツの中でも圧倒的な存在だし、常に重要な音楽として注目されてきた筈だと思っていたが、この本では、中山康樹や後藤雅洋、村井康司、村上 寛といったJAZZについて沢山の本を書いてきたライターたちが、今までコルトレーンをあまり重要視して来なかったと告白しているのだ。
そんなことはないだろう。誰もがいつもコルトレーン、コルトレーンと言ってきてたではないかと思う。彼らがこんなことを言い出すとは驚きである。
だがコルトレーンには幾つかの変節の時期があり、目をつぶり覆い隠してきた部分がある。本当のコルトレーンの真価というのはそこを抜きにして語ってはいけなかったのではないか。彼らはそのような読み直しの時期を今、迎えているというのだ。
こういう予想外な波紋が現れてこそ、雑誌としての意味があるのではないかと思う。
現在の若いリスナーがファラオ・サンダースをよく聴いているという。スピリチュアルな部分、６０年代半ば以降、コルトレーンがファラオ・サンダース、アリス・コルトレーン、ラシッド・アリ、ジミー・ギャリソンと組んだクインテットはコルトレーンのキャリア全体像を曖昧にしてしまった。ファラオ・サンダースはコルトレーンの意志を継いだのかどうか、彼が続けた音楽が今の若いリスナーにはフィットしているらしい。
DJクラヴ・シーンでの現象なので、JAZZの真価と絡められるのかどうか不安はあるが、音楽は生きているかのように解釈も変わっていき、コルトレーンの後期の音楽も評価を変えつつあるようだ。
かつて、あえて語ろうとはして来なかったコルトレーンの音楽の流れについて、今は語る必要がある。
私は確か１５年ぐらい前にパステルズのステファンが最近はガボール・ザボやアリス・コルトレーンを聴いているとインタヴューで答えているのを読んで、「へぇ～」と思って、アリス・コルトレーンも聴くようになったりしたが、JAZZというのは本当に変な音楽で、実に様々な解釈が可能な音楽だ。最も広く世界中の音楽を飲み込めるグローバルな民俗音楽だという気がしている（かつて日本人が洋楽をみんなジャズと呼んでいたみたいに）。コルトレーンはその鍵を握っている可能性がある。
当時はあまりにスピリチュアルな行動の唐突さにリスナーは戸惑い、胡散臭さを感じてしまった傾向もあったようだ。しかしJAZZのフォーマルな形態から逸脱してきた後年のコルトレーンの音楽は、よりJAZZが拡大変容する未来を見据えるヒントとして現在有効である可能性がある。
単にコルトレーンの偉大な功績をまとめあげるのが本の役目ではなく、今までの聴き方に浅薄な部分があったことを認め、聴き直しをせまるという挑発的な発信。
こういう本、雑誌が読みたいものだ。
文藝別冊 「KAWADEムック ジョン・コルトレーン｣ （河出書房新社）
２０１２年 ３月 １８日
「おすすめ文庫王国」 １位の小説を読んでみた
ミステリー短編の名手というと、単純に都筑道夫とか想像してしまう。ミステリーに関して教養もあるし、ミステリーの定義を試みる小説論の本も幾つか書いている人である。
しかし、都筑道夫って一般的には名手としての冠はいただいていないんじゃないだろうか？
ミステリーのコアなファンの間では評価は定着しているけれども、文学全般の中での評価というのはどんなものだか．．．．
長岡弘樹の小説が珠玉の短編であると、本の帯で文句が踊っていたので、ちょっと好奇心がわいて読んでみた。
だが、この作家を短編小説の名手のように評価するというのはいかがなものか。私はこの小説を良いと思う人は読み間違っていると思う。これを文芸批評家が評価しているとしたら、ちょっとその人は問題あるだろう。（解説は大森望が書いている。この人は文芸批評家というより本読みマニアなので、本質より枝葉で突出している部分を過大評価し過ぎるきらいがある。私もその傾向があるので気をつけたいと思っているのだが）
『傍聞き』には四つの短編が入っている。いずれも何らかのキーワードが登場し、それに対して読者は神経を研ぎ澄ます状態に引き込まれる。最後に見事な着地を見せ、その着地点は想像していた地点からは相当離れた場所にあり、驚かされる。その手際に対して感心する。
キーワードがあらかじめ明瞭に提示されるところがフェアなのだ、確かに。
例えば一つめの「迷走」では救急救命士の規則違反がキーワードである。登場人物の救命士は過去に人命救助のためにあえて救命士には資格の無い医療処置を施したことがある。それをまた起こそうとしているように見えるが今回は逆にマイナス方向に暴走しているのではないかという疑いもあり、読者はそれがどこへ着地するのか緊張して読み進むことになる。量の無い短編ながらそこには幾つかの伏線が用意されており、それらを組み合わせたり順序を変えてみたり、数人の登場人物の誰に照準を合わせるかを考え直したり、非常に豊かな内容を持っている。それでいて最後にはそれまでの要素を含みながらもキーワードを使って意外な着地点を見出し、さらに人情的な部分で予想外の結論を引き出す。正義とか善意とか良心であるとか誠意だとか、ちょっとお仕着せがましい部分ではあるけれども、これの差し出し方にも意外性がある。
この本の四つの短編は、着地点がどこに来るかがミステリーであって、事件自体はミステリーではない。四つの短編はどれも事件自体はミステリーではなくなっている。これが実は一番意外性のある部分かもしれないが、かなりメタ・ミステリー的な構造ではあるものの、はっきり言えば掟破りではないのか？
掟破りである上に、事件（犯罪）をないがしろに扱っている（犯罪者心理が無視されている。もっと言えば着地が人情味の部分に飛んでいる分、ないがしろにされた犯罪側は差別されている感覚に近い）
ミステリーはメタ・ミステリー化した時に、ミステリーでなくなるほどの飛躍で破壊されてもいいが、犯罪を差別したらもうミステリーとしての意味は無いと思う。
婚約者を事故で障害者にされたしまった主人公がその事件の刑罰を不当に軽くしてしまった検察を目の前にして渦巻いている複雑な思いや、出所を控えて自分を逮捕した主人公の女性刑事との面会を希望する収容所の男の思い、一見普通の母子と見られるその母親にちらちら見え隠れする暗い部分、過去の犯罪で被害者家族に断罪を突きつけられ、自殺願望を持つ前科者の思い切れない迷い。
それらを題材として提示することが出来ているのに、その思いは着地点のアイデアの前にあえなく無効化し、消え去っていく。
長岡弘樹 『傍聞き（かたえぎき）』 （双葉文庫）
２０１２年 ３月 １７日
７０年代映画の逆襲の時期がやってきましたかナ その２
さらには、フィリップ・ラブロの「刑事キャレラ １０＋１の追撃」（１９７２年）も出てしまいます。
これはVIDEOでもめったにお目にかかれなかった映画（昔、レンタル店を探しまくりました）ですし、フランス映画の中でもとりたてて知られているわけでもないのです。
ただ、女優陣は豪華で、ドミニク・サンダ、ラウラ・アントネッリ、ステファーヌ・オードランとたまらんライン・ナップです。（って、７０年代を知らない人には反応しようのない名前だとは思いますが）
フィリップ・ラブロはジャック・ドレーやエドゥアール・モリナロ、アンリ・ヴェルヌイユ、ジャン・エルマン、ジョゼ・ジョヴァンニといったフランスのクライム・ムービーでよく知られた監督たちに比べると知名度はないのですが、本当は落としてはならない名前で、私はアラン・コルノーやアンドレ・テシネらとともに語るべき存在だと思っています。
後年は作家として有名になるのですが、映画監督として７本の長編映画があり、そのうちの５本は日本でも劇場やビデオで過去には見ることが出来ました。特に私は８３年の「ザ・クライム 陰謀の罠」がフレンチ・ノワールの匂いが濃厚で傑作だと思います。「潮騒」（７２）は哲学的な思索も含んだ文学的作品で、「危険を買う男」（７６）は男の友情を描いたフィルム・ノワールの真っ当な傑作と、この２本が代表作だと思いますが、「ザ・クライム」のフランス映画でないと味わえないような危うい香気が貴重だと思いました。
一作目と思われる「Ｔｏｕｔ Ｐｅｕｔ Ａｒｒｉｖｅｒ」（６９）は日本では未発表だと思いますが、８４年に最後の１本「Ｒｉｖｅ Ｄｒｏｉｔｅ、Ｒｉｖｅ
Ｇａｕｃｈｅ」という映画があってこれも未発表だと思います。ジェラール・ドパルデューとナタリー・バイ、キャロル・ブーケが共演の大物ぞろいの作品ですから、フィリップ・ラブロの再評価を立ち上げ、これらの映画をＤＶＤとして日本で出せるような状態まで持っていけたらなぁと期待しています。
6月20日発売予定
２０１２年 ３月 １６日
７０年代映画の逆襲の時期がやってきましたかナ
DVDもネタ切れになってきたからか、この頃になってようやく一般的には認知度の低い面白映画の渋いチョイスが幅を効かしてまいりました。けっこういい勢いできていますので、このチャンスを逃さず、一気に出し切ってもらいたいと思います。
まずは、ついにリチャード・T・ヘフロンの「未来世界」（１９７６年）が出ます。ユル・ブリンナー主演の「ウエストワールド」の続編とされているものの、パート２としての影は薄く、顧みられることの少ない映画です。しかし、こちら「未来世界」はピーター・フォンダ主演。ヘフロンでフォンダ主演。アメリカ７０年代映画ファンは反応せざるを得ない黄金律の組み合せの一つです。機械文明を制御しているつもりが逆に機械に支配されそうになるそんな不安を漠然と抱き、ユートピアがディストピアへと反転する未来像を素朴に描いていた７０年代に対する郷愁と言ってしまえばそれまでですが、SFとは、未来と過去を横断する時間操作の世界でもあり、７０年代に描いた世界を１９９０年代に見る、２０００年代に見るという風に時を隔てて見ると、単に古びてしまうと感じるのではなくて、幾つかの時間の枝分かれする分岐点を見つけることになるのだと思います。
ヘフロンなので、脱線したところの描き込みに感情移入が強く、ストーリーが遅々として進まない、みたいな不満を感じるかもしれません。そういうところで二流と思われてしまいがちな監督です。でも、そこが好きだと思うことの出来る人ならば、この７０年代映画の醍醐味を味わい尽くす事が出来ます。
5月１１日発売予定
（上のＤＶＤジャケットはＵＳＡ盤のものです）
２０１２年 ３月 １０日
建築家がムラ論などと言い出すと不安になってくるな
隈研吾の『新・ムラ論ＴＯＫＹＯ』は、同じ集英社新書の『新・都市論ＴＯＫＹＯ』をふまえての続編として書かれたのだと思うが、こちらから先に読んでしまった。都市論では、汐留、丸の内、六本木、代官山、町田を歩きながらルポしており、ムラ論では、下北沢、高円寺、秋葉原、小布施（長野県）を歩く。
ムラというのは「村」をカタカナにしているのだけど、村の持つ機能が都会にも必要であること、またそれによって都会にも村は成立するのだと考えるところから都会に存在しうる村を「ムラ」と名づけてみたようです。隈 研吾はどうも説明の仕方が要領を得ず、わかりにくいところもあり、同行するライターの清野由美にかなり辛辣に突っ込まれたりしていて、どうやら定義はしてみたものの「ムラ」とは何か、本当は十分練れてはいないようなのだ。まあ、まだ手探りの感じがある状態だとして読んでみれば、今後の都市づくりの考え方として面白いところもあるのではないかとは思うが、正直なところ、都市づくりという考え方においては、何をするかよりも何をするべきではないかの方が余程重要であり、何もしなければ放っておいても人の住む所というのは「ムラ」になる筈ではないのかという気はする。
その意味ではやはり、都市論については徹底的なダメ出しが先決ではないでしょうか。
確かに町を構築していく人々が登場し続けていくわけだから、その人たちが何をやるかで結局は町は作られていく。『新・ムラ論』では、そこを見て行こうと考えたのだし、その為、最後に東京ではなく長野に飛び、小布施で誰が何をしたのか、自然に作られたわけではなく、特定の人たちの考え、意図が小布施という町を作り出したのだということを検証する。
しかし、どうも私は意図的に作られた善意の押し付けみたいな町というのが好きではない。
隈 研吾・清野由美 『新・ムラ論ＴＯＫＹＯ』 （集英社新書）
一方で読んだのが、なぎら健壱の『東京路地裏 暮景色』だ。なぎらは銀座生まれなのだそうだ。直ぐに葛飾に越してしまうのだが、なぎらには銀座の印象が強い。どんなに都会であろうと、そこには町の歴史が染み付いている部分があり、それは時代の変化に抗いながら生き続けようとする意志を持つ。街へ出てカメラで気に入った場所を撮るのが趣味のなぎらは、２０年後、３０年後の同じ場所を写真でとらえ、変わり果ててしまった風景を呆然と見つめたりもするのだけど、ある種の自然な流れ（時代の流れ）とは残酷なもので、それは事実として受け止めるしかない。それでもそこで暮らす、生きていくことが、実は、変化に抗いながら生きていくということなのではないだろうか。
そこに住む人々は、そこを見続けてゆく。本当のムラとはそうやって放っておいても生き続けている土地と暮らしのことではないのか。
私は建築家というのはそこが何やら作為的な「工夫づくり」にとらわれて、要りもしない「工夫」を散りばめて街を無意味に汚している気がするのだが。工夫よりもドンと夢想の建築物を実体化してしまえと思うのだけど。小布施の「オープンガーデン」（個人の庭風景を見学開放している）や、共有駐車場（複数施設の共有駐車場だが、名前が其々違った呼び方になっており、道に風紋が付けてあったりして）などが、楽しいムラのあり方だとは私には思えないな。
なぎら健壱 『東京路地裏 暮景色』 （ちくま文庫）
２０１２年 ３月 ９日
やや強引にムーミンに結びつけてしまいましたが
「そもそも深夜営業の画廊などに入って言いった理由さえ思い出せないのだったが、たぶん理由などなかったのだろう。」
なにしろそのようにして始まるのだから、それだけで既にどこか帰ることも出来ない世界に浸かり込んだ気分のままずぶずぶと沈んでゆき、心地良さだけにくるまれて物語に囚われてしまう。そこは決して自由な場所ではないが、気持よいのである。
閉空間である。何でこうなっているかわからないし、何故このようにしているのかもわからない。しかし人々はそこでそのようにそれをして生活している。
例えば、ある建物の中で、そこの住人たちは冬になると冬眠をするように長い眠りに入る。召使たちは、その間も働いているのだが、何故そのようなことになっているのかは一切わからない。そもそもわかろうとする気持も起きはしないのだが、建物の中には召使たちが近道をする裏の通路というものがあって、彼らは姿を消すように通常の通路から姿を消し、裏の通路に入っている。それとて何のためにということはない。それはデヴィッド・リンゼイが『憑かれた女』で異次元の部屋へ飛んでしまう通路を作ってしまうように、建築物や構造がそのような形を成しているとしか言いようの無いものであり、そこではそれは在るものとして受け入れるしかなく、何の疑問も無く彼らはそこで暮らしている。
冬眠というと、私はムーミンの『ムーミン谷の冬』を思い出してしまうのだけど、あの小説でムーミンは、村中が寝静まってる中で、たった一人目覚めてしまったのだった。単純に言えば冬眠者にとって冬は死の世界のようなもの。普段なら眠っていて通り過ぎてしまうのだから無の世界でもある。ムーミンは初めて冬に起きてしまったことで冬の存在を知るのだけど、『ラピスラズリ』にも皆が眠ってしまったのに一人だけ眠れなかった少女が存在するのだ。建物自体は召使たちが冬眠とは無縁で働き続けているのだったが、冬眠の間は建物の住人たち冬眠者と召使が接触することは無いのである。
『ラピスラズリ』は冬眠者の外側にいる召使たちのストーリーでもあるし、ゴーストの影がちらついているし、閉ざされた空間を成していて、『ムーミン谷の冬』とは真逆の構造を持っているようにみえる。
しかし、構造的には逆でも世界観的には近いのではないか？
ムーミンの物語を教訓や風刺のつもりなどで読むなどという愚を犯すとまるで見えなくなってしまうが、むしろ表層として受け入れた物語の中の現実だけを見つめれば、かなり似ているという気がする。
挿話の中の「トビアス」という章では、突如日本の近未来とも昭和戦後とも判断できない停滞した時代に舞台は飛び、そこでは犬が話者の冬眠に付き添って死んでしまうのだったが、『ムーミン谷の冬』にも何だか似たような話があった気がする。
『ラピスラズリ』は、単行本が２００３年に出ており、２０１２年になっての文庫化で、９年がたっている。実は単行本も真っ先に買ってあったのだが、読んでいなかった。著者によれば、今回の文庫化で全面的に推敲して手入れを行ったとのこと。随分と変わってしまっているのだろうか？
だとしたら、やはり単行本の方も読まないわけにはいかないだろう。ちょっとしたズレが生じた物語となっているかもしれない。かすかに異なるパラレルワールドのように。
山尾悠子 『ラピスラズリ』 （ちくま文庫）
２０１２年 ３月 ３日
ためいきしかでませんワ
「Ｓｕｂｊｅｃｔ：さようなら」
ttp://www.youtube.com/watch?v=ZnI64LkP2hU&feature=related ♪
歌い終わった瞬間にぱっとマイクを離すところの異常なまでの凄みと切れ味はなんなんでしょうか。
とにかく名唱、名曲が多くて見始めたら止まらないんですが．．．
「想いあふれて」
ttp://www.youtube.com/watch?v=vlBU89rnfu4 ♪
「きずな」
ttp://www.youtube.com/watch?v=ZTu9dBCA8FY ♪
「砂を噛むように・・・ＮＡＭＩＤＡ」
ttp://www.youtube.com/watch?v=rzZOVjtOlLc&feature=related ♪
２０１２年 ３月 ２日
レスリー・ダンカンの巣晴らし過ぎる映像 １９７１年
どうしてレスリー・ダンカンのリイシューは進まないのでしょうか？ それが不思議で仕方ありません。
優れたアーティストなのに過去の作品が復刻されない。こんなケースは幾らでも存在しているのが当たり前かもしれませんが、レスリー・ダンカンは近年に２枚のアルバムが復刻されています。この２枚を聴けば、どれだけ重要なアーティストであるかは今の音楽リスナーならば気付く筈だと思うのです。それぐらいリスナーのポピュラー・ミュージックに対する理解は成熟してきているし、私も今の多くの世界中の音楽ファンが信頼に足ることは普段から身に沁みています。
それがどうしてレスリー・ダンカンのアルバム復刻が２枚で止まってしまって許せるのでしょうか？
もう怒りの一撃とも言うべき素晴らしいＣｌｉｐがＹｏｕ Ｔｕｂｅに突如、信じられないぐらいの鮮明な映像でＵＰされましたので、是非多くの人の目に触れて欲しい。リンダ・ルイスやヴァシュティ・バニヤン、ブリジット・セント・ジョンのように、レスリー・ダンカンは常に注目され続けるべきシンガー・ソング・ライターだと思います。
アルバムは全部でたったの５枚です。１枚目と２枚目はＣＤ化されました。その２枚の注目度は悲しいくらい静かなものでしたが、内容は圧倒的に素晴らしい！ いまだに発見されていない名盤です。
あと３枚。
キャロル・キングを何度も再発する暇があるのなら、もっとこっちに目を向けてくれ。
口が滑りました。 黙ってレスリー・ダンカンのアルバムをアップしておきます。
１９７１ Ｓｉｎｇ Ｃｈｉｌｄｒｅｎ Ｓｉｎｇ
１９７２ Ｅａｒｔｈ Ｍｏｔｈｅｒ
１９７４ Ｅｖｅｒｙｔｈｉｎｇ Ｃｈａｎｇｅｓ
１９７５ Ｍｏｏｎｂａｔｈｉｎｇ
１９７７ Ｍａｙｂｅ Ｉｔ’ｓ Ｌｏｓｔ
↑ Ｃｌｉｃｋ この２枚はＣＤ化済（買うべし！）
この３枚を誰か復刻してください
フランソワーズ・アルディでもそうですが、７０年代に一度ブレイクしているが故に、その後ぽっかり穴が空いたまま片隅に置かれっ放しにされているような気がします。確かに名前自体は既に有名なので「発掘」とうたう事も出来ず扱い方が難しいかもしれません。ただ７０年代での聴き方がそのまま現在にも通じるのか、検証する価値もある音楽と言えるのではないでしょうか？ レスリー・ダンカンについては代表曲「Ｌｏｖｅ
Ｓｏｎｇ」が、例えばギルバート・オサリバンの「Ａｌｏｎｅ Ａｇａｉｎ」のように完璧なポップスのスタンダードとして記憶されるのが、彼女の作品にふさわしい聴き方とは思えないのです。
エルトン・ジョンとニール・ヤングが共演して「Ｌｏｖｅ Ｓｏｎｇ」を歌ったバージョンも見ることが出来ます。
ちょっと表情の変わった曲となります。レスリー・ダンカンの曲としては、ポップスとして扱われるよりも、こちらの方がしっくりくる気がする。
http://www.youtube.com/watch?v=CZG8mOyTPtk&feature=related
２０１２年 ２月 ２６日
いつか浮上する時
松浦弥太郎（「暮らしの手帖」編集長）の本が文庫本で出るようになって、もうどんな本でも文庫本になるのだな、と思ったりしたが、本が売れない時代だからこそ、間隙を縫って通ってしまう企画もあるのか、ある意味非常にマニアックなものも今なら文庫本として出せてしまう。そんな状況かもしれない。
本読みにとっては少し愉快な事態になってきたとも感じるのだ。
荒川洋治も文庫本が出るようになってきた。こういうことは以前にはあまり考えなかったことだ。つまり、荒川洋治のような人の本は単行本においても特定の読者しか手にしない類のもので、そういう人は単行本でも買うのだし、それで完結してしまうような人だからだ。専門的で難しい（本人は詩人）からではなくて、この人のエッセイや批評のような本は、扱う内容がマニアックで読者層を広げる可能性などほぼ無いに等しく、文庫本にする意味が無いのである。そのマニアックぶりというのは、ある種のジャンル的に偏っているのではなくて（むしろ、それであれば、文庫としては扱い易いのだ）、何やら正体のつかめない独特の偏向性を持っているからだ。
それでも文庫になってしまう。いい世の中になったのか、悪い世の中になったのか、よくわからないが、私個人は正にこの中間的な領域に馴染んでいるので、荒川洋治の本が安く読めるというのなら助かる。私にはこの文庫化はありがたいのです。（とはいえ、７８０円と安くはない文庫本だけど）
今回出た本は『忘れられる過去』という。前回書いた植草甚一の本が忘れられた中間小説の作家を多く扱っていたのに対し、この本は似たところがあって、読みながら（つながるな）と思った。
始めに柳田國男の「美しき村」の紹介から山形や秋田の話しに触れる。『小説は電車で読もう』には関東大震災の話しが出て、吉村昭の『関東大震災』が紹介されたのだが、やはり、震災や東北の話しは、それが過去に書かれた文章だとしても去年の震災へとつい思考がつながってゆく。
本屋に行けば常に関連の特集コーナーが作られているし、吉村昭の『三陸海岸 大津波』、『関東大震災』や柳田國男『雪国の春』、寺田寅彦『天災と国防』などは平積みされている。こういう本が書店に並ぶように忘れ去られた書物もいつかまた浮上する事がある。それをやってのけるのはベスト・セラーの記録の積み重ねという「記録」ではなく、読者の「記憶」、それも特定の読者の「記憶」だと思う。それは、つまり植草甚一や荒川洋治のような人たちによって成されているのではないだろうか。
J・J氏が中間小説を扱ったのに対し、荒川氏が扱うのはジャンルの枠を取っ払って幅広く拾った書物だけども、その語りは純文学的な方向へ向いていく。荒川氏は何を扱っても純文学的になるのである。
この本に出てくる名前は、結城信一、島村利正、前田河広一郎、中戸川吉二、保田與重郎のように、これまた現在では出会うのが難しい、名前が消え去りつつある人たち。純文学や詩の方面の作家たちだ。しかし、彼らについて書かずにいられない荒川洋治にとっては当然ながら忘れ難き作家なのである。
だが、今現在の雰囲気からすると、こういう忘れ去られつつある作家の本がふいに復活する事態は、頻繁に起こるようになるのではないか？ かつてはリイシューというと一般的に知名度の高いものが漠然と提示されて大して意味が無かったが、現在では視点をずらす事により違った目で見るということがリーシューに対して行われるようになっている。非常に挑発的な行動が出始めている。
荒川洋治 『忘れられる過去』 （朝日文庫）
２０１２年 ２月 ２５日
忘れられる絶好調の名前を切り取る
本は売れなくなったと言われたり、書かれたりしているが、出版点数自体は増えているのではないか？
毎日、毎月ものすごい数の新刊が出版されているし、復刊も多い。自称作家、ライターなんて人も相当数いるだろう。しかもけっこう明日をも知れぬ身で稼業をやってる方たちも多そうだ。基本的には儲からない職業だというのに。
そんな案外心細くも気ままではある文筆の世界の現状においても、そこに植草甚一を置いてみると、その世離れぶりはさすがに特殊で、こんなにまで徹底して遊び（？）に人生を費やすような人はもう出てこないんじゃないかと思わせる。
今度読んだ『小説は電車で読もう』は、中間小説（この言葉の意味、もうわからない人がかなりいそうですが）に興味を持ったJ・J氏（植草氏）が、毎月出る文芸雑誌から中間小説らしいものを全部抜き出し、片っ端から読むという自ら好んで行う自分の為の企画のレポートである。７０年代前半で、文芸誌もまあまあ活況を呈している。SFとかミステリーとか時代小説などジャンル分けされた雑誌がむしろ少なく、大雑把に純文学とはちょっと異なる、大衆向けのエンターテイメントを意識した小説を広くひっくるめて中間小説といった。
植草甚一 スクラップ・ブック ３２ 『小説は電車で読もう』 （晶文社）
文芸雑誌に載ってる小説だけ、短編が殆どとはいっても優に毎月１００編以上はある。J・J氏はそれだけやってればいいって人じゃないから、他にも読んだり書いたりしながら、それに加えてこれを続けるわけである。そんな人、他にいるだろうか。この人は文芸誌を買うと、喫茶店に入り、そこで小説の部分を破って集め、ホチキスで止めて本にし、やおらそれを読み始めるのだ。
いやまあ、実は今でもそんな奇怪な人は世間にいるんではないかとは思ってます。大森 望や豊崎由美、北上次郎のような本読みの人たちも毎月相当読んでいると思う。昔は凄かったってことではなくて、今もいると思うんだよね。私は必ずしもJ・J氏が特別とは思わない。でも、たぶんJ・J氏は自分の好奇心のままに行動しているだけだろうけれど、現在の特殊な趣味人たちは、そうしたJ・J氏のような先人が作った道筋の上で成り立っている気がする。
この本は主に１９７１年から７３年までの文章を集めており、読んでいた小説というのは当時の中間小説ということになる。
４０年も前というと、現在では忘れ去られてしまった作家というのも多数存在する。しかし、当然ながら消えてしまった作家たちの小説が、価値が無いために消え去ったとは言いきれないだろうと思う。
植草甚一氏のリアルタイムの姿勢はここでも出ていて、気になる作家を何人も取り上げ、紹介しているのだけど、多くが既に消えてしまっているのである。しかし、その時点において、それらの小説は植草氏にとっては注目すべき佳作たちであった。どうして消えてしまったのか？ この本を読むと無性にこの忘れ去られた作家たちの小説が読みたくなってくるのである。
例えば、助川明（「問題小説」などに小説を発表していたようだ）という名前。風俗小説に過ぎないのかもしれないが、全く聞いたことの無い名前だ。こんなにも綺麗さっぱり消えてしまった作家が一体どれだけいるのだろう。
岡本好古ならば、名前ぐらいは覚えがある。しかし、１９７１年の時点においてJ・J氏が注目したようには、現在岡本好古の名前は注目を持続してはいない。今の書店からは姿を消してしまっただろう。
中山あい子となると、もうどんな作家なんだかまるでわからない。J・J氏は女流ハードボイルド作家などとよんで称賛しているけれど、日本のハードボイルド小説を語る中で中山あい子の名前が出ることなどかつても今も無いと思う。J・J氏はしかし、そういうことはおかまいなしなのだ。
他にも伊藤桂一、沼田陽一、藤島泰輔、上段十三、川村久志、岩川 隆、寺内大吉などといった名前が並ぶがこの名前から作品名が浮かぶなどという人は今ではもう殆どいないだろう。
しかし、毎月のように文芸誌に作品が載り、J・J氏に「今月も岡本好古が好調だ」なんて書かれると、一時であれ彼らが輝いた時期もあったのだという風に思いを馳せてしまう。
２０１２年 ２月 ２４日
あっけなさこそがノワールを決定付ける
「殺人目撃者」 （１９５４年 米 ） ロイ・ローランド （録画）
１９５４年８月にアメリカでアルフレッド・ヒッチコック監督の「裏窓」が公開されている。しかし、同じ年の４月に同じように向かいの建物の窓越しに行われている殺人を目撃してしまう映画が公開されていた。それがロイ・ローランド監督の「殺人目撃者」だ。目撃したのはバーバラ・スタンウィック。犯罪者の方はジョージ・サンダースだった。物語の始まりが似ているからといって二つの映画は内容としては全く別物なのだが、「裏窓」が先ではなかったというのは面白い。
アイデアでいえば、ついには日本では未公開に終わった「殺人目撃者」も「裏窓」のように意表を突く斬新さが映画としてはあった（ミステリー小説としてはこの時点で新しいものではなかったかもしれないが、映画としては発端をここに持ってきたのは新鮮な試みだったと言えるのではないか。「裏窓」の技巧は、この向かい合った窓で目撃するというアイデアに徹底的にこだわったところが正に斬新だったわけだが）
ロイ・ローランドは４０年代、５０年代に西部劇をはじめ、ミステリーや家族ドラマ、ミュージカルなども撮った、メジャーなフィールドにおける中堅的な監督だったのではないかと推察されるが、特にこれといって代表作が浮かぶこともなく、職人のようにジャンルものを量産したということもなくて、およそ２０年間あまりで３０作程度を監督したにとどまり、作品数は多いとは言えない。
西部劇が多いようにみえるが、何本かフィルム・ノワールらしい映画を手掛けていて、その１本が「殺人目撃者」である。こちらは犯人がジョージ・サンダースで、犯人の役割も大きく、云わば異常犯罪者の領域にあり、目撃者であるスタンウィックに執拗に嗅ぎ回られ追い込まれるかと思いきや、逆に仕掛けて目撃者の方を追い詰め、楽しんでいる。目撃者であるスタンウィックが精神病院に強制入院させられるところまで責め込まれるのだが、結局知能犯と思えたサンダースがあっけないほどに自らの快楽殺人者ぶりをさらけ出してしまい、完全犯罪のシナリオは崩れる。
技巧として整然としているミステリーではない為、拍子抜けするということはある。しかし、犯罪者心理のわけのわからなさを生のまま突きつけてしまうところがこうした映画にはあって、B級といわれるようなノワール映画のあっけなさこそが本当は怖いのである。ロイ・ローランドは目に焼きつくようなショットを切り取るタイプではないみたいだが、あっけなさこそが怖いという部分は摑んでおり、ジョージ・サンダースから確かな演技を引き出している。
ラストで建設中のビルの階段を駆け上がり屋上へと逃げるスタンウィックをサンダースが追う場面などは、明らかに犯人側は楽しんでいるのだが、どこかしらジョージ・サンダースは脂汗を浮かしているようにも見える。人間臭さがふと出る瞬間というのはあるものだ。それを作り出す手もあるが、出た瞬間を切り取れるかどうか、たぶん映画はそこに掛かっていると思う。
私はスタンリー・キューブリックの「非常の罠」（５５年）を技巧に陥った失敗作と考えているのだが（同じくコッポラの「雨のなかの女」（６９年）も）、ロイ・ローランドの「殺人目撃者」は技巧としては稚拙なところはあっても、生で突き刺さってくるドキュメントの部分をはらんだ正真正銘のノワールだと思う。
２０１２年 ２月 １８日
メンフィス・サウンドを体現する姉弟のような二人 イーヴィーとチルトン
イーヴィー・サンズの「I Ｃａｎ‘ｔ Ｌｅｔ Ｇｏ」が聴くことが出来るＣＤは過去にもオムニバスＣＤの幾つかであったと思います。ただ新しく非常に素晴らしいコンピレーションＣＤが発売されましたので、これを機会にイーヴィーのＢｅａｔ
Ｐｏｐ Ｇｉｒｌ 時代の曲があらためて多くの人の耳に届いて欲しいと思うし、出来ればこの時代の曲を集めてイーヴィーのＥａｒｌｙ Ｗｏｒｋ集として１枚のＣＤにまとめて出してもらえないだろうかと期待しています。
珍しい人で、初期にはＴＶ番組にも多く出演した人気のＰＯＰ歌手だったのが、７０年代の始めにはアシッド・フォークのような不思議な雰囲気のアルバムを出したかと思うと、ヒットが出ず模索の時期が続いたせいか７０年代後半にはディスコ・サウンドとＡＯＲも取り込んだようなアルバムを出し、細々とながら活動するわけです。９０年代後半に入るとイギリスの若いインディー・ギター・バンドらがリスペクトを表明し、思わぬところで浮上するのです。しかし、根っことしてはアメリカ音楽に浸かっているような人なので、現在でも地味に地方のサーキットでバンドの一員としてディープなアメリカン・サウンドをカオスを極めた形（アメリカ的にはすっきりしているのかもしれませんが、ディープなアメリカン・サウンドというのは外国人にはカオスなのです）で奏でているのです。
「Ｔｈｅ Ｒｅｄ ＢｉｒｄＧｉｒｌｓ ｖｅｒｙ ｆｉｒｓｔ ｔｉｍｅ ｉｎ ｔｒｕｅ ＳＴＥＲＥＯ １９６４－１９６６」 ↑ Ｃｌｉｃｋ 「Ｓｏｕｌ Ｄｅｅｐ」
（ジェリー・ビーンズやアド・リブズ、エリー・グリニッチ、バタフライズなどのガール・ポップが入ったオムニバスＣＤ）
文字通りのカオス、Ａｄａｍ
Ｍａｒｓｌａｎｄ‘ｓ Ｃｈａｏｓ Ｂａｎｄに現在は所属し、ＧとＶｏを担当しています。いわゆる典型的なアメリカン・ロック（カントリーやフォーク、ブルース、サイケデリックが混沌として綯い交ぜになっている）だからか、日本でアルバムが発表されることはないし、一切話題も入ってきません。
彼女がアレックス・チルトンに対するトリビュートの意味をこめて、Ｂｏｘ Ｔｏｐｓの「Ｓｏｕｌ Ｄｅｅｐ」を歌っている映像を見つけました。考えてみればアレックス・チルトンもアメリカン・サウンドのカオスを象徴するメンフィスを本拠としたアーティストであり、同じようにＢｏｘ
ＴｏｐｓからＢＩＧ ＳＴＡＲ、そしてメンフィス・サウンドとしかいいようのないクレオール的な南部サウンドと数奇なキャリアと音楽の人生を送った人で、イーヴィー・サンズは、今同じ流れを汲み、歌い続けているのです。こういう音楽はなかなか日本までは届いてきません。
↑ Ｃｌｉｃｋ
２００３年のＢｏｘ ＴｏｐｓのＬＩＶＥの模様。プライベート・ビデオらしい良い味が出ている映像です。
このゆるゆるさがメンフィス・サウンドの特徴でもあります、とけっこう勝手な思い込み解釈してます。
アレックス・チルトンはそれこそアメリカの６０‘ｓのＴＯＰ１０ヒット・バンドであるＢｏｘ Ｔｏｐｓのヴォーカリストでしたから、２０００年も過ぎれば同年代の元バンド仲間は多くがまだ歌っているとしても懐メロの領域に入っています。チルトンもＢｏｘ
Ｔｏｐｓの再結成には参加し、懐メロとしてＢｏｘ Ｔｏｐｓのヒット曲を歌いました。しかし、チルトンに限って言えば、ずっと音楽から離れたことはなく、常に前線で勝負し続けていたのであり、それはアメリカやイギリスのパンク/ニュー・ウェイヴ以降の若い世代と同じ舞台で歌い、演奏し、リスペクトされてきたことで証明されました。ただ、ＢＯＸＴＯＰＳの再結成で歌うチルトンを見ていると、彼からすれば懐メロとしての６０’ｓも８０年代以降の音も、同じ音楽として分け隔てなく繋がっている。彼にとってそれがメンフィス・サウンドであり、自然なことだったのだとわかります。
イーヴィー・サンズの奏でるＢｏｘ Ｔｏｐｓの曲もそれを体現しているのでした。
それにしても、あらためてアレックス・チルトンって変な人だなぁと思いつつ、それを継承するイーヴィー・サンズがいるアメリカという国にしばし思いを馳せました。
↑ Ｃｌｉｃｋ チルトンはギターも最高。生で見たかった ↑ Ｃｌｉｃｋ ＢＩＧ ＳＴＡＲの動いている姿が見られる貴重な映像
２０１２年 ２月 １７日
ジャック・ターナーと「アンダルシア」は一致する ？
「夕暮れのとき」 （１９５７年 米 ） ジャック・ターナー （録画）
ジャック・ターナーはフランス出身である。早くからアメリカに渡っているが、最初はフランスで映画を３、４本撮っている。３０年代半ばからアメリカで短編映画を沢山監督した後、３９年にアメリカでの長編第１作を発表しているから、ジョン・ヒューストンより早いわけだ。フィルム・ノワールは一応１９４１年の「マルタの鷹」を始まりと一般的には定義されているから、やはりジャック・ターナーはまさにこのフィルム・ノワール及びB級映画（低予算映画）の時代を生きた人だろう。６６年あたりに６０歳台前半でフィルモグラフィーは途切れており、ちょっと引退は早過ぎたようである。７０年代も映画を撮り続けていれば、ドン・シーゲルやロバート・アルドリッチらと同様に名を残していたかもしれない。
「夕暮れのとき」は１９５７年の作品で、原作はデヴィッド・グーディスの『NIGHTFALL』である。主人公は事件に巻き込まれただけなのだが、状況は彼が殺人犯と疑われかねない条件が揃ってしまい、逃げるしかなくなる。警察から逃げ、真犯人からも狙われている。偽名で隠れるように人生を送っている。時々ふと寂しくなり夜の街にふらりと出る。「NIGHTFALL」とは夕暮れ、夕方のことなのだけど、主人公は陽が落ちて来なければ自由に出歩けない。そんな影のある世界でしか生きられない状態を指しているのだろうか。典型的なフィルム・ノワールの物語と言える。
主演はアルド・レイ。真犯人側にはブライアン・キース。ヒロイン役はアン・バンクロフトで、この人は映画「卒業」（６７年）が最も有名なのかもしれないが、２００５年に亡くなるまでハリウッドの一線級映画に出続け現役を通したすごい女優です。
雪山が出てきて、重要な鞄が雪に埋まり、車はガードレールを突きぬけ崖下に落下し、あれ？何だか「アンダルシア 女神の報復」に共通する部分があるのだけど．． 勿論全く別物で影響も何も全く関係は無いに違いないんですが、私が思うには「アンダルシア」というのは結局そういうB級映画が用いる符号を幾つか使っている。問題はその処理の仕方、またはそれを使う神経（つまり過去の映画の要素を使うセンスと品格とその料理方法）が問われるということなんでしょうが、私は「アンダルシア」にはこの「夕暮れのとき」に通じるものを感じるのです。列車の中で織田と黒木メイサらが座っている、特にストーリーを進めるのに機能しているとも思えないシーンなど。そういう空気は、この「夕暮れのとき」でアルド・レイとアン・バンクロフトが長距離バスに乗って雪山へと向かうその座席に座ってる様子をついつい大事に撮ってしまうジャック・ターナーの感覚とそんなに違わないと思うのです。
２０１２年 ２月 １２日
仮説 歌謡曲の誕生
そもそものＲＯＣＫとは。
ＲＯＣＫ（いわゆるニュー・ロック）よりも、ロックンロールの方が先なわけだけど、ポップスもまた、ロックンロールの後に来るのではないだろうか？ そう考えるとロックンロールというのは思いの外早い。
しかし、ロックンロールとは何なのか？ これは現在、非常にわかりにくくなっているのではないか。
というか、ロックンロールってニュー・ロックやブルースよりもポップス（ポップスという懐メロ）に近いと思われているのでは？
私は「近い扱いでけっこう」とは思っているのだけど、実際にはちょっと違うと考えている。ロックンロールはロックンロールであり、むしろポップスがロックンロールに近いのだ。そこらへん、ロックンロールもポップスも見損なうな！と言いたいのである。
勿論、その前にＪＡＺＺもブルースもトラッドも存在し、ニュー・ロックやロックンロールに影響を与えている。これは日本でも大きい。アメリカよりも大きいかもしれない。特にＪＡＺＺは日本でも戦前から日本大衆音楽の先端の部分を占めていて、それがロカビリーを経てＧＳと歌謡曲を生み出していく。私は日本はＪＡＺＺとロックンロールがけっこう大きいと思う。（フォークについては今ひとつわからない。ちょっと怪し気な感じがしているのだが。つまりモダン・フォークのモダンにトチくるったところがあるんではないかと．．．）
ロックンロール無しに日本の歌謡曲は無い。私はここが歌謡曲の起源だと思うのだ。
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Jerry Lee Lewis 「Great Balls of Fire 」
映画「グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー」でデニス・クエイドのジェリー・リー・ルイスを見た時に、まるでジョニー・ロットンのような風采で演じているのに「作り過ぎだな」という気がしないでもなかったのだが、実際に当時のルイスを見ると、あながちジョニー・ロットンとの近似も大袈裟ではない。その音楽は異常である上に大衆を熱狂の渦に巻き込み、しかも音楽自体、徹底して大衆に向かっている。
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Elvis Presley 「Blue Suede Shoes」
幾らなんでも、このプレスリーに熱狂しない人とは音楽の深い話は出来ない。音楽を聴く理由のおよそ全てがここにある。何でこんなにも狂おしいのだろうか。圧巻。
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Teddybears 「To Know Him, Is To Love Him 」
フィル・スペクターの凄さは実はテディ・ベアーズの時点で既に出てしまっている。この曲は完全に一つのＳＴＡＲＴを表している。ロックンロールとポップスが一つになった完成形がこの「Ｔｏ
Ｋｎｏｗ Ｈｉｍ、Ｉｓ Ｔｏ Ｌｏｖｅ Ｈｉｍ」だと思うのだ。ニルヴァーナにおいてすら原点はここにある。
これをロックンロールと呼ばずしてアメリカの音楽を語ろうとする人を私は信用しない。
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Chuck Berry 「Roll Over Beethoven」
チャック・ベリーがいてこそのロックンロールである。芸人でありながら職人であり、孤高の求道者である（その孤高ぶりは灰野敬二が引き継ぐが如し）。その姿を見れば、自然と意味不明な涙がこぼれる。
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Ｂｒｅｎｄａ Ｌｅｅ 「 I'm Learning About Love」
すなわちロックンロールと歌謡曲とはこういう関係である。ブレンダ・リーを聴けばわかるということだ。こうして歌謡曲は生まれたのだ。それはたぶん２０１２年の日本の歌謡曲を聴いても気付くことであろうと思う。
２０１２年 ２月 １１日
ユニゾン・コーラスのパワー
田渕ひさ子がバックでギターを弾いている（カメオ出演みたいなもので、演奏はしていないらしいですが）ＢＵＯＮＯ！の新曲ＰＶ 「初恋サイダー／ＤＥＥＰ ＭＩＮＤ」。私は好きです。 パリでの公演も成功だったとの話しで、ＢＵＯＮＯ！にはこれからは是非生バンドを従えてどんどん海外へ出て行って欲しいと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=JmTA0mPjnwE&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=KkXzc7AB15A&feature=relmfu
Buono! 「初恋サイダー/ＤＥＥＰ ＭＩＮＤ」 （２０１２） 片岡義男 小西康陽 『僕らのヒットパレード』 （国書刊行会）
片岡義男 小西康陽 『僕らのヒットパレード』で、小西康陽が合唱に興味を持ち出し、ＡＫＢ４８の「桜の栞」はプラスティック・オノ・バンドの「平和を我等に」よりずっと素晴らしいと書くのだが、プラスティック・オノ・バンドとＡＫＢ４８を比べて語るなどという方法は９０年代に入ってから出来るようになったことで、それをやってきた人の一人が小西康陽である。これにより音楽に対する見方は大きく変わった。それが良かったのか悪かったのか、正統なのか異端なのか、今でもよくわからないものの、結局、世界中の音楽がそのような見方に変わりつつある（自国のポップスをアメリカ、イギリスのポップスと同じ俎上に乗せて聴く方向に向かいつつあること）のは間違いない。それが形になって現れる（韓国や日本のヒット曲が世界で普通にヒットすること）のはまだ先のことだろうが、ＡＫＢ４８の音楽はどうなのだ？ 秋元康は本気なのか？ といったことは、日本の音楽はもっと真剣に問うべきである。
日本のヒットチャートを大雑把に馬鹿にすることで済まされるなら、日本の音楽好きは黙っている必要は無い。ＡＫＢ４８の「桜の栞」は素晴らしいと、言い切ればいいのである。
Ｔｏｄｄｌｅ 「Ｔｈｅ Ｓｈｉｍｍｅｒ」 （２０１１） （実際にＢｕｏｎｏ！の曲に参加したメンバーもいるようです）
２０１２年 ２月 １０日
ＴＶスケールの映画をもっと見たい
「春よこい」 （２００８年 日 ） 三枝健起 （ＤＶＤ）
三枝健起はもう５本も劇場映画を撮っている人なので、充分映画監督なのですが、なにぶんTVドラマでのデヴューが鮮烈でしたので、いまだにそのイメージが離れない。
「春よこい」もTVドラマなんじゃないかという気持でつい見てしまったのですが、ちゃんとした劇場映画なのでした。それで全然構わないのだということをこれから言いたい。
三枝健起の第１作は、１９８４年のNHKドラマ「安寿子の靴」です。それ以前にも何か演出しているかもしれませんが、やはりこれが最初であると考えていいでしょう。
唐十郎の原作でその後も唐十郎とのコンビが続いたりもするのですが、演劇的ではあっても演劇のクセの強いアクのようなものはなく、どことなく平板なファンタジーとでもいうような淡い感触があり、奇妙に熱が抜けているところが自分には心地良くて好きでした。また印象的な、三枝健起の好みとでもいうのか、ちょっとそういう淡さを感じさせる女の子（又は女性）が登場する。「安寿子の靴」で幻のように消えていった泉リリセという女の子は強烈な印象（忘れられなくなる感じ）を残していきましたし、その後の「匂いガラス」（１９８６年 ２年待ったんですね。三枝健起の次作に注目し続けて）では仙道敦子、８７年３作目「雨月の使者」では「北の国から」で出て来たばかりの横山めぐみが出ていました。
TVの方では気鋭の演出家だったと思うのですが、１９９７年に「ＭＩＳＴＹ」（天海祐希、金城武）で劇場映画を撮るようになってからは思ったほど評価は伸びず、「春よこい」になってくると、どこで上映されてたんだか誰も記憶に無いだろうぐらいに片隅に追いやられてしまっているような気がします。
「安寿子の靴」（８４） 「匂いガラス」（８６）
「春よこい」は、アクシデントで人を殺してしまい指名手配となって姿を消してしまった夫を、心の中で待ち続けながら、息子とじいさんとの３人で静かに海辺の町で暮らす妻（工藤夕貴）を描いた、あまり起伏もなければ、どちらかといえばよくあるドラマ展開に落ち着く、平凡な物語です。何も起きなさ過ぎて、見ながら眠ってしまう人が出てきそうな退屈さです。
関わってくる登場人物の誰もが何となく共通した思いを持っていて、暗黙のうちに立場を許しあうようなところがある。厳しさとかは希薄かもしれませんが、これが三枝健起特有のファンタジーだと思います。特別はっきりした根拠を示さなくても、刑事の宇崎竜童は逃げていた夫（時任三郎）が４年ぶりに帰ってきそうだとふんで張り込みを始めるし、逃亡先で夫が知り合った女（高橋ひとみ）は、勝手に子供を呼び寄せてしまうが、大した事も起きずに子供は新聞記者（西島秀俊）に引き取られ、父親と会うこともなく、帰ってゆき、父親は「勝手なことをするな」と怒るでもなく、「ありがとう」と言い、静かに去ってゆく。何かきっかけがあって大きく話しが揺れ動くかと思ったら、そうでもなくラストへの道はなだらかです。気が付くと物語は一歩進んでいる。リアリティはあるようで無い。例えば、刑事の手帳の予定表のところの２、３日後に定年の日がはっきり記入されているのに、それには周りの登場人物は全く気付いた様子もないし、本人も過剰に意識している様子はない。手帳に書いてあるのが見えただけです。いろいろな仕草、仕掛けが1回だけで、周りが気付かない。そういう演出をする。
歩く時に畳をこする音がするシーンがあります。自然とそうなってしまうシーンかもしれませんが、三枝監督はそんな細かいシーンを大切にする監督なのです。刑事（宇崎）が酔いつぶれた工藤をおぶって行くシーンでは投げ出された工藤の足が映る。そのぶらんとした足が表現しているものが描き出したい部分なのだと思います。
ＮＨＫは三枝健起作品に対して、一度振り返って特集するようなことはしたみたいですが、ＤＶＤとして出すべきではないでしょうか。またＴＶ作品がもう少し映画と同様に批評の対象になるべきだと思う。これだけ地デジの時代に入ってチャンネルが把握できないぐらい増えてきている中で、ＴＶは十分に過去の作品を生かしきれていない。ＴＶにはＴＶの映像手法があるし、映画でない（映画の手法で出来ていない）から映画として認めないなんて言い草がＴＶ演出家の映画への進出を阻もうとする図式の温床となる差別としてまかり通っているとしか思えない。（三枝ドラマはＹｏｕ Ｔｕｂｅでなら見ることが出来ます。Ｙｏｕ Ｔｕｂｅはつまり見たい人、見せたい人の意志が表現されている最も正当なチャンネルなのだと思う）
私は三枝健起がＴＶスケールで映画を撮ったとも言えるこの「春よこい」を作ったことは意義があると思う。アメリカにはそれこそＴＶスケール（いろいろな面で巨大バジェットからはほど遠い）の映画の傑作は山ほどあって、これもまた生き残りの戦いを続けているのであり、日本でもＴＶだからといって一段下に見られる謂れなど全く無いはずだと思うのです。
２０１２年 ２月 ５日
岡田 徹のイイ仕事
岡田 徹（ムーン・ライダーズ）で３連発いきます。
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「ナイト・トレイン・美少女」 真鍋ちえみ（パンジー） １９８２年
作詞：阿久 悠 作曲：細野晴臣 編曲：岡田 徹
８２年ですからライダーズの「青空百景」の頃でしょうか。特徴のあるギターで直ぐバックがライダーズだとわかる曲ですね。切なさもまさに「青空百景」。映画「夏の秘密」（８２）のラストで流れたようです。見たことが無いので映画の詳細はわかりませんが。監督の川上裕通はこれ１本しか撮っていないみたいです。
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「夏への手紙」 矢野有美 １９８５年
作詞：高橋 修 作曲：松浦雅也 編曲：岡田 徹
この子は映画「パンツの穴」（８４年 鈴木則文
監督）に出ていたのは覚えてます。
「ガラスの国境」というアルバムを８５年に出しています。岡田徹がプロデュース、全編曲。ＰＳＹ・Ｓの松浦雅也やライダーズの白井良明、鈴木博文、武川雅寛。鈴木智文、中原信雄、竹中仁見（サロン・ミュージック）、野宮真貴（ポータブル・ロック）、矢口博康、佐伯建三と凄まじい顔ぶれ参加になってます。
テクノ歌謡として評価も高いらしいので、是非ＣＤ復刻して欲しいアルバムです。
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「風の中のカフェテラス」 岡田有希子 １９８４年
作詞：三浦徳子 作曲：岡田 徹 編曲：清水信之
岡田有希子のファースト・アルバムに岡田徹作曲の曲が１曲だけ入っています。（白井良明の曲も１曲だけある） ファーストは竹内まりやの曲が中心でしたが、セカンド、サードアルバムでは松任谷正隆が全曲の編曲を行い、尾崎亜美、小室哲哉なんかが作曲するようになります。セカンドからはかしぶち哲郎も作曲陣に加わっており、４枚目のアルバムで、松任谷正隆に代わり、かしぶちが全曲の編曲を担当（作曲も）。坂本龍一も３曲作っています。
ちょっと意外ですが、岡田有希子とムーン・ライダーズはけっこう深い繋がりがあるのです。
２０１２年 ２月 ４日
ならばいっそＬＰと配信だけ出す事にしてしまって下さい
久し振りにいいバンド見つけました。NYブルックリン出身というＴＯＴＡＬ ＳＬＡＣＫＥＲ。メンバーは３人。ＢＥＩＲＵＴ＝ザック・コンドンの弟がいるようです。
ギャラクシー５００やSHIMMY DISC、ガン・ボールやダイナソア・JR、ハーフ・ジャパニーズ、ダニエル・ジョンストンらがひしめいていた時代をふと思い出すような音と言っておきます。
ヘヴンズ・ミュージックといったところでしょうか。近年に多い悲壮なロック・ミュージックからは隔絶しているように聴こえます。袋小路に自ら突っ込んでいくROCKを横目にすいすいすれ違い、すり抜けていってほしいと思います。
← Ｃｌｉｃｋ
アルバムを発表していますが、配信とＬＰのみ。ＣＤはありません。（私はもっぱら Ｙｏｕ ＴｕｂｅとＮＥＴ ＳＨＯＰのサンプル音源で聴いてます） 昨今、アナログや配信の方が音質は良く、ＣＤは劣るという話しがあり、配信の方が安い上に音も良いとあっては、さすがにＣＤも分が悪いでしょうが、無いなら無いで済んでしまうパッケージ（こだわるならＬＰのサイズの方がＣＤよりいいわけですし）はますます切り捨てられていく傾向が進むのかもしれません。自分としても、配信しかしていない音楽に気になるものが増えており、否が応でも配信に興味が向かわざるを得ません。
去年購入したジェマ・ヘイズのＣＤが、気のせいかもしれませんが今ひとつの音（何となく音の情報量をワン・ランク減らして落としているような印象の音）で、ＮＥＴ上で聴いてるジェマの同じ曲の音の方が良く聴こえてしまったのが、どうも引っ掛かっており、本当にＣＤはもう駄目なんじゃないか？という疑念が出てきてしまいました。
ならば、いっそ、ＬＰ（アナログ）時代に戻ってしまおうかという気持もあったりするのですが、本当に思い切って今年はどのバンドもＬＰを出してもらえないものかと思います。
ムーン・ライダーズも最後にして新作のＬＰを出しましたよね。(買ってませんけど)
この ＣＤを出さないＴＯＴＡＬ ＳＬＡＣＫＥＲのようなケースが増えていくのかどうか、２０１２年の気になるところです。
Ｔｏｔａｌ Ｓｌａｃｋｅｒ 「Ｔｈｒａｓｈｉｎ'」（２０１１）
２０１２年 ２月 ３日
映画を探せ
雑誌『映画芸術』の「２０１１ 日本映画 ベストテン ワーストテン」は、映画が映画であることを重要視するむきがあり、「これは映画じゃない」と思うものを排除する傾向がある。私はそこの１点にこだわるつもりもないので、それによって軽視される作品も興味のわくような要素があれば見ます。
投票者の一人であった荻野洋一も「「アンダルシア 女神の報復」あたりになると、もうワーストに投票する気もおきない」と、にべもない言い方だが、どのように駄目かという記述はなく、納得の出来る内容ではない。ただ一人、前田哲の「極道めし」を次点候補として挙げていた点に、ある種の偏った映画愛好癖はあると思われるのだが．．．
それにしても前田 哲も曽利文彦（「あしたのジョー」）も西谷 弘（「アンダルシア」）も鶴橋康夫（「源氏物語 千年の謎」）も無視またはワーストにこそ名は挙がれど、ベストには全く顔も出さぬ（ベストに挙げられた映画は１２１本もあったのだが）有様は、自分にとってはけっこう壮観な眺めである。
「アンダルシア 女神の報復」
『映画芸術 ４３８号』 （編集プロダクション映芸）
今号の『映画芸術』には、畑中佳樹の名前があって驚いた。もう映画について文筆業を行うことはないのかと思っていたが、ひっそりとした復活であろうか？ 去年は安井 豊（現 安井豊作）も本を出すなど、かつて８０年代に映画について書く注目すべきライターであった彼らがポツポツと舞い戻って来ているかのように感じられるのは嬉しいことである。畑中は今回、イーストウッドの新作「J・エドガー」についてレヴューしており、エドガー像について逆説的な見解を述べるところなどは、かつての「らしさ」が甦ってきた感じである。
もう一つ、面白い記事がある。脚本家の柏原寛司がクライムものの映画を２本取り上げている。
柏原寛司は、「太陽にほえろ」や「傷だらけの天使」の頃からアクションもの系の脚本を書いている人で、Ｖシネマの時代にも大川俊道や一倉治雄らとともに活躍していたが、この人が取り上げた作品は、ケン・ブルーエン原作のイギリス映画「ロンドン・ブルバード」（ウィリアム・モナハン監督）と、マシュー・チャップマン監督のアメリカ映画「ザ・レッジ －１２時の死刑台－」。年度末のベスト１０とかにはあまり縁の無さそうなプログラム・ピクチャーではあろうが、ここにマシュー・チャップマンの名が出て来たのにはちょっとした意外性があった。
マシュー・チャップマンといえば、１９８６年に「殺しに熱きテキーラを」というＴＶ映画を監督していた人物である。今に至るまで監督業を続けていたことすら意外だったが、実は８８年の「ハート・オブ・ミッドナイト」以来２３年ぶりの監督作だったとのことだ。その間はリチャード・ラッシュの「薔薇の素顔」（９４）やゲイリー・フレダーの「ニューオーリンズ・トライアル」（２００３）などの脚本を書いていたらしい。
２３年ぶりでこのクラスの監督が日本公開される映画を撮ったのも驚きだし、やはりそういう映画を雑誌面で文章を書くのは柏原寛司のような人、ということになるのだろうか。
「殺しに熱きテキーラを」は、アーサー・ライアンズ原作のハードボイルド（『燃え尽きた城』）である。エリック・ロバーツが主演の探偵で、ファム・ファタルとしてビバリー・ダンジェロがが出演していた。出来は十分に満足できるものであるとは言い難かったが、私が以前書いた“真昼のフィルム・ノワール”という趣きの８０年代的なノワール映画で忘れ難いものだ。こういう映画は見落とされがちなので、私もここで柏原氏の文章を目にしていなければ、遠い記憶の彼方のまま、再びマシュー・チャップマンに出会うなどということは無かったかもしれない。
私は、柏原氏のような書き手が雑誌には必要だと考える。
２０１２年 １月 ２９日
アスファルト・ガール
「風立ちぬ」は山口百恵の映画（７６年）がありますが、これは西河克己の映画かと思ったら、そうではなくて、若杉光夫でした。あまり物語に起伏が無いからかもしれないですが、映画化は少なくて、それ以外では１９５４年に島 耕二が監督し、石浜 朗と久我美子が主演したものが１本あるだけのようです。
↑「猫は知っていた」
西河克己監督で見てみたいなと思って調べてみたのですが、ちょっと予想外の結果で。
西河監督なら普通に撮れてしまうかもしれないのですが、考えてみるとこの本の映画化は難しい。風景が主役の一つになるのは間違いないとして、その風景を実験映画風でありながら普通のように眺められるものであることが「風立ちぬ」にはふさわしいような気がする。思い浮かんだのは森田芳光監督（いつかゆっくり後期の映画も見たいと思っております）と黒沢 清監督で．．
「怪談落とし穴」 主演は成田三樹夫！！ 
島 耕二版の「風立ちぬ」を見ることはかなわず、この監督は今では忘れ去られている中でも多作だった人で、３０年間ぐらいで７０本ほどの作品があり、美空ひばりの歌謡映画や「銀座カンカン娘」（４９年）、ミュージカル映画なんかが得意だったらしいですが、実にいろいろ撮っていて、「宇宙人東京に現わる」（５６年）なんてのもこの監督です。
「チャタレー夫人は日本にもいた」 島作品の出演が多い轟夕起子
変な題名の映画がいっぱいあって、「怪談落とし穴」（６８）とか「ラーメン大使」（６７）、「女めくら物語」（６５）、「セクシー・サイン 好き好き好き」（６０）、「猫は知っていた」（仁木悦子原作だ！）（５８）、「にっぽん製」（５３）、「チャタレー夫人は日本にもいた」（５３）、「窓から飛び出せ」（５０）などなど、一体どんな映画なんだと、興味をそそるのですけど、見られないんですよねぇ。
特に「アスファルト・ガール」（６４）ってタイトルは、どういうつもりなんだか、昔の考え方は全く予測がつきませんが、これはミュージカル映画らしく、楽しそうで、見てみたいです。
２０１２年 １月 ２８日
これまでに何遍もこうやってあれを見ていた事があるような気がする
堀 辰雄は、『ルウベンスの偽画』がずっと好きで、自分は、何年かすると必ず一度そこへ戻りますね。
自分の好きなものというのがたぶんこの小説の中に幾つも入っていて、しかもそれがこれ以上のものはないと思っているからじゃないかと思います。
堀 辰雄の場合、『風立ちぬ』の印象もあるし、軽井沢という土地のイメージもついて回る。文章には舶来ものみたいなアイテムが散りばめられていて、大雑把にまとめてしまえば、少女趣味というか、しゃらくさいというか、軽薄にあしらわれてお終いみたいに捉えている人は多いのではないか。
あまり深いところまでは降りていかない小説、ではあるかもしれない。何故彼女はこうしなかったのか、何故私はあの時言わなかったのか．．． 多くは人生のある場面しか見ていなくて、広い視野のようなものはない。近年でいうところの世界系に近いかもしれないぐらい周囲がこの世の全部で、周囲の見方だけで世界が崩壊しかねないぐらいに考えているようにみえてしまう。
しかし恐らくそれは人間の一面として誰にもあるものだろう。周囲と世界は地続きだし、周囲しか見ていないからって世界を見ていないとは実は言えない。世界は外へも内へも広がり繋がっているし、微小なものの中に世界が詰まっているとは、今の人たちは昔の人たちより感じている筈だ。
堀 辰雄の文章はそこに特化しているかもしれないけれども、それは他の世界が見えていなかったからではない。
『ルウベンスの偽画』などは、嫌いな人にはそれこそ嫌いなものを代表するかというぐらいの言葉が盛り込んであると感じるに違いない。女性を「ルウベンスの偽画」に例えるそれだけで、「何言ってやがるんだ」と。ラストには「ばかな栗鼠だな」とつぶやいてしまうのだけど、気取るのもいい加減にしてほしいと思うかもしれない。
ただ、気障だから駄目だってのはおかしいんであってね。
軽井沢の高原文庫に行ったことがあります。なだらかな山道が多く、車で行きやすいところです。
堀 辰雄の小説でも車で移動していることは多い。別にリゾート地として描いたわけではないのだけど、いったい掘 辰雄の小説には生活感がなくて、毎日が療養しているみたいだからわかりやすい活力みたいなものが無い。その代わりに出てくるのが、車の中に吐いてあった唾が綺麗に見えたとかそんなことだったりするんで、また神経を逆なでする（？）んだろうか。
本当はもっと素直に読んでもらいたいと思うのだが。『風立ちぬ』で私が外からサナトリウムへ向けて帰ってくると、遠くに女性の姿が見える。誰だかわからないぐらい遠くなのだが、だんだん近付いていってそれが節子であることがわかる。病状からはあまり考えにくいことなのだが、彼女はそこに立っていたのであった。そうしたささいなことが生の活力でなくて何であるのか？ 小さな事を大きな事のように書いたわけではないのだ。それで充分だと言いたかったのでもない。ただ素直にそれが生きる愉しみだった。それを描いたのが『風立ちぬ』である。
時代のメイン・ストリームに立ち上がってくるような人生の捉え方ではない（つまり、結局世界系とも違うからなのだが）から、常に大多数の理解を得ることは少ないものの、一方で少数の支持者が存在し続ける。堀 辰雄は不思議なことに本の出版が途切れることの無い作家で、廃（すた）れもしないが、特に高い評価を得ることもない。常に書店で入手可能な状態であり続けているのはよく考えてみると意外である。ただ、私は、それは堀 辰雄が“希望（活力）を描いた作家”であるからだと思っている。
←堀 辰雄の最新の出版文庫（巻末に佐多稲子、佐々木基一らの座談会抄録を含む）
堀 辰雄 『風立ちぬ ルウベンスの偽画』 （講談社文芸文庫)
２０１２年 １月 ２７日
西河克己の封印映画
ほとんどお蔵入り化していた西河克己監督の「スパルタの海」（８３年）がＤＶＤになるようです。
戸塚ヨット・スクールに対してどのような見方をして映画制作にのぞんだものなのか、ちょっと見るのに躊躇したくなる気持もありますが、西河克己監督の幻の映画でもあるんで、これはやっぱり見てみたいですね。
それにしても、このところ邦画のＤＶＤは面白いところを出してくるし、洋画でも「巨匠たちのハリウッド」シリーズとして、ジョン・ヒューストンやニコラス・レイ、サミュエル・フラー、ジョゼフ・ロージーなどの今まで見ることの出来なかった映画を続々ＤＶＤ化する動きがここ日本で起きているってのは何だか不思議な気がします。ＤＶＤもいよいよ売れなくなってきたので、逆にやけくそな企画も通るようになってきているのか．．．？
ビデオの時代にも無かったことが、今起きているわけですから、これは快挙です。しかも「巨匠たちのハリウッド」シリーズや、「日活１００周年邦画クラシック」シリーズなどは値段もまずまず良心的だし。
特に邦画はこの動きを進めていって、大森一樹や池田敏春、前田陽一、西村 潔らの初ＤＶＤ化の仕事を進めていってほしいものです。大森一樹も吉川晃司のシリーズや「花の降る午後」などのアクション監督！としての面が語られて初めてちゃんとした評価を受けたことになるのだと思う。
主演は伊東四朗。４月発売予定
２０１２年 １月 ２２日
さもありなん
雑誌『映画秘宝』の２０１１年度 トホホ１０の投票では、
柳下毅一郎が １位「源氏物語 千年の謎」
樋口泰人が １位「アンダルシア」
森 直人が １位「源氏物語 千年の謎」 ですか。
はぁ～あ。なるほど。
そうかもしれませんが。
映画批評家としてはあまり信用していない３人がこぞってこういう映画を挙げているのが納得です。
『映画秘宝 ２０１２年３月号』 （洋泉社）
２０１２年 １月 ２１日
先住民（新宿住民）のボサノバ
１９５２年生まれ。１９６８年には１６歳だった平井 玄。現在も新宿に住むという。
新書で出ているのだけど、エッセイとも小説とも社会学的なものともつかぬ奇書と言いたくなるような不思議な書物だった。
著者が新宿を語るようでもあり、新宿が著者の筆を通して自分史を語るようでもある。亡霊のようにぼうっと時間とともに佇み、新宿を見てきたような濃厚な空気みたいな本でもある。
１９６９年、新宿アートシアターでゴダールの「ウイークエンド」を見る高校２年から話しは始まるのだけど、時間はまさに時空を飛ぶがごとくあちこちへと飛躍して、江戸時代や明治時代の新宿（新宿となる場所）にも思いを馳せる。自分の高校時代を語っていたかと思えば、明治の夏目漱石が新宿を舞台に動き出し、また１９７０年代、１９８０年代と時は落ち着くことなく行ったり来たりして、その時々の新宿という街をとらえていたもの（音楽や写真、建築）が幻のように立ち上がる。
何を語ろうとしているのか、平井 玄という自分と、その時その時に自分がそこにいた新宿を描くことで日本の歩み（今もあるもの、今は無くなったもの）を浮かび上がらせようとしたのか、もっと目的は漠然としていて、それが故に最早幻想小説の域に達してしまっているかもしれない。それぐらい新宿自体が生き物のように蠢いてしまう。
闘争という言葉とは違うのだが、著者にとって新宿は恐らくある種の内戦状態。常に亀裂をはらんでいる。催涙弾、浅間山荘、「僕らがデモでしか通ったことのない青山通りで、ユキヒロたちは女の子たちとパーティを開いたりして遊んでいたんだ」と坂本龍一が言う。
デモと機動隊がぶつかる新宿通りの三越ビルに「ピンキーとキラーズ」のどでかいポスターが見える。
１９６８年。今 陽子は１７歳で「恋の季節」を歌った。それはボサノバ・ロック、「ラテン・ロック」だったわけだが、ボサノバの背景がわかっていない。それはまた、ブラジルの市民運動にも通じる熱を帯びつつ、何故かサウダージ（憂愁）を漂わせるものだったのだが、この空気がたぶんその時点ではよくわかっていなかったのだ。坂本龍一がアルバム「サマー・ナーヴス」（７９）で「自分という植民地」、東京という占領された街で生きていくしかないんじゃないかと音楽を通じて歌っているように感じたそれが何よりも「ボサノバ」であったと、著者は新宿に今も生きる中で、闘争とサウダージの日々を進行形であると考えているのだと思う。
平井 玄 『愛と憎しみの新宿 半径一キロの日本近代史』 (ちくま新書)
２０１２年 １月 １５日
Ｍ．Ｉ．Ｊ． １９８４年
私が初めて聴いたムーン・ライダーズの曲は「M．I．J．」です。１９８４年だからもう二十歳になろうとする頃で遅い。「青空百景」（８２）にも間に合っていない。「マニア・マニエラ」（８２）は一般的に手に入りやすくなったのはカセット・ブックが出た１９８４年だったと思う。私は「M．I．J．」が入ったアルバム「アマチュア・アカデミー」（８４）とこのカセット・ブックはたてつづけに入手した。
実を言えば、ムーン・ライダーズは遅かったが、ビートニクス（鈴木慶一＋高橋幸宏）は最初から聴いていた。ビートニクスの１作目「ＥＸＩＴＥＮＴＩＡＬＩＳＭ 出口主義」は１９８１年の発売である。
簡単に言えば、ＹＭＯからの流れで聴いてきて、ＴＶのＣＭ絡みで（「Ｍ．Ｉ．Ｊ．」は化粧品のＣＭイメージ・ソングだった）たどり着いたのだ。名前は知っていたが、私はあまり日本のロック方面には詳しくなかった。あの頃、『ビックリハウス』という雑誌が人気があり、ムーン・ライダーズ（鈴木慶一）も絡みがあって名前は知っていたが、実際にやっている音楽はどんなものかわからなかった。
「アマチュア・アカデミー」は正直、自分がライダーズに期待していたものとは音が違って、洋楽というより文学的な和物音楽のイメージが強く、何か受け入れ難い違和感のようなものがあった。しかし、続けて聴いた「マニア・マニエラ」は、これこそ私がライダーズに期待していたニュー・ウェイヴに近い感覚であり、つまり私が好きなＸＴＣに近い音だった。両アルバムのギャップにくらくらしたが、「アマチュア・アカデミー」にあるＸＴＣやウルトラ・ヴォックス的な感触を何とか拾って聴き込むことで、私はライダーズの多面性（雑食性）に馴染んでいった。
その後、ほどなく「青空百景」も聴き、８２年～８４年頃のネオ・アコースティックの音とリンクしていることもわかったし、鈴木慶一らが、ＸＴＣやヘアカット１００、スティーヴン・ダフィらをよく聴いている背景にも気付くようになる。その時点でもう自分にとってムーン・ライダーズは特別な存在になっていたが、初期のアルバムを聴いて、一聴したところでは非ロックに聴こえるシティ・ポップスぽい音の肌合いにまた戸惑うことになる。
そんな中で７７年のアルバム「イスタンブール・マンボ」に入っている曲「ビューティコンテスト」に魅かれた。この曲は自分のイメージする歌謡曲のど真ん中に位置するメロディーだったのだ。ロック・バンドを標榜するライダーズがどうしてこんなにも歌謡曲っぽいのか。そこはサディスティック・ミカ・バンドにも通じてくるのだが、実際には認識の転倒が起こっているのである。本当は歌謡曲がアメリカやイギリスの洋楽ポップスを下敷きにしていたのであって、自分が子供の頃から親しんできたＴＶから聴こえる歌謡曲は殆ど洋楽ポップスの翻訳だったのだ。（現在では、とりわけ１９６７年頃のイギリスのスウィンギング・ロンドン時代が日本の歌謡曲に影響しているのではと考えるようになってきている）
ムーン・ライダーズの音楽は自分が子供の頃から聴いてきた音楽の流れと密接につながっていることがわかった。そういうバンドはさすがに珍しかった。そこにどんな原因があったのか．．．
それが、先に書いたアグネス・チャンとのエピソードで見えてくるのである。
ムーン・ライダーズの特殊性は、あがた森魚との関係においても大きいものがある。
あがた森魚の一大ヒット曲「赤色エレジー」は鮮明な記憶として残っている。一昔前の感覚で言えば、バンド・ブームの頃に「たま」が出て来た時の感覚のようなものであろうか。アンダーグラウンドな所から間違って表舞台に出てきてしまったような存在として、「赤色エレジー」は焼きついている。その時はムーン・ライダーズがあがたといっしょに出ていたんだとは知る由もなかったが、つくづくライダーズというのは不思議なところに足跡を残しているバンドだと思う。（あがた森魚もしかりだが）
ムーン・ライダーズ 「アマチュア・アカデミー」、「マニア・マニエラ」（カセット・ブック） （１９８４）
２０１２年 １月 １４日
ライダーズがアグネス・チャンのバック・バンドをしていなかったら．．．
私は松任谷由実にがっかりしたことがあるんです。彼女がデヴュー前にはかなりのブリティッシュ・ロック・フリークであったことを自分で言っていて、キンクス、スモール・フェイセズとかも好きだったと言うんですね。７０年当時のことですからこれはけっこうマニアックな方だったと思います。しかし、デヴュー作を作る時に用意されたバンドはキャラメル・ママ（ティンパン・アレイ）一派だった。彼らは何しろザ・バンドやジェイムス・テイラーといった人たちですからもろアメリカン。彼女はあまり好きではなかったという。しかし、結局受け入れてしまった。私は松任谷由実という人の音楽作りがそこに集約されているように思う。まあキャラメル・ママの演奏は素晴らしかったんだろうけど、そういう音を探求するようになってしまった彼女にはもうキンクスのようなブリティッシュ・ガレージは用の無いものとなったんではないでしょうか？
ムーン・ライダーズの特殊性は、彼らがアグネス・チャンのバック・バンドを甘んじて受けた、この１点に尽きるとも言える。音楽へのこだわりの違いというか、彼らにとって音楽は形（つまり高度に上昇すること）ではなく、音楽は生きることであった。生きるということと音楽は切り離せない。アートの捉え方が両者は異なるように思います。
かつて容赦なくバンド仲間を切り、腕ききを引き抜いていったと鈴木慶一はよく語っていますが、その結果として選んだのは、ステイリー・ダンではなく、１０ｃｃとジェネシスだった。はちみつぱい時代を経て、まさかの転換が行われたように感じますが、そうではなく、ムーン・ライダーズは音楽が生きるということであるのに貪欲であったのだと思います。貪欲であるが故に容赦ない。
７０年当時のROCKは上昇をめざしており、そこに志があった。日本のROCKはそれをけっこう形で受け止めていたのではないかと思う。「ROCKとはそんなもんじゃない」と多くの人が口にしていたのではないか？ 「ROCKとは」．．．と語り始めた時点で、何か音楽の原点と言えるものを切り捨ててしまった気がする。ムーン・ライダーズはその舞台からは降りてしまった。
ムーン・ライダーズのファースト・アルバムは７７年に発売された。この時に、イギリスの動きに反応するメンバーたちの中で、音楽の志向に違いが生じたのか、椎名和夫が脱退する。鈴木慶一はロキシー・ミュージックやT・レックスのような技術的には卓越しているとは言い難いイギリスの音楽が、自分の周辺のミュージシャン仲間の間では軽んじられる傾向があったと振り返っている。しかし、ムーン・ライダーズの面々は完全にイギリスの動きにハマッてしまった。
何故か？
私は、やはりムーン・ライダーズがアグネス・チャンのバック・バンドを引き受けてしまった経緯とこれは繋がっていると思う。
ファースト・アルバム「ムーン・ライダーズ」での演奏は、技術的には高いところにある。７６年、イギリスを席捲したパンク・ロック以降を聴き慣れている人間からすると、この演奏は嫌味なくらい上手過ぎるといっていい。その高い演奏力で作られた楽曲は、しかし、いわゆるROCKのイメージからはほど遠いだけでなく、特別ブリティッシュ・ロックらしさを醸し出すものでもない。むしろ結局歌謡曲に近い。よく聴けば１０ｃｃやジェネシスの影響ははっきりわかるのだが、それ以上にとっちらかっているというか、汎音楽的であり（映画音楽の無国籍性のように）、歌謡曲的な猥雑さがある。
「お洒落してるネお嬢さん」のような曲を作ってしまうのだ。
パンク・ロックがROCKの上昇志向に唾を吐いたように、ムーン・ライダーズは日本の音楽の原点を忘れないことを選んだことによってROCKの上昇志向を拒んだ。
（しかし、日本の音楽の原点とは、明治の時代に壊滅的に展開された時点から始まっているものであり、洋楽とともに出発している。）
私はムーン・ライダーズというのはひょっとするとヴァン・ダイク・パークスに近い存在なのではないかと考えているのだが、アメリカにおけるヴァン・ダイク・パークスに対して日本のムーン・ライダーズが選ぶ音楽とは、滝廉太郎以降、服部良一以降、というようなことになってくる。日本の原点は歌謡曲（唱歌）にあるとするならば、ムーンライダーズは原点を守るためにROCKを壊した、日本のオリジナルなパンクである。（パンクという言葉を免罪符のように連呼すべきではないと普段自らに言い聞かせている割に、ついつい大上段気味に偉そうに発してしまい恥ずかしい。「決定的な転換を促した」という意味で使っています。そのようにとらえてほしい）
ここでまた微妙な言い方になるのだが、私の考えでは、それこそが荒井由実が夢中になったブリティッシュ・ロックというやつなのである。荒井由実がブリティッシュ・ロックに夢中になった要素はそこにあった筈である。
アルバム「ムーン・ライダーズ」の紙ジャケCDのライナーに書いてあったディレクター中根康旨氏がグレアム・グールドマン（１０ｃｃ）をふと挙げ、そこにホリーズの「バス・ストップ」の作者であるという記述がある時（「バス・ストップ」はいわゆるROCK的文脈でいえば、ダサくて甘いイモ歌謡曲ということになるだろう。極端な言い方だが）、ムーン・ライダーズの特殊性が際立つ。
「スパーリングジェントルメン」で祭囃子を使ってしまう発想。「マスカットココナッツバナナメロン」でのパイロットやモンティ・パイソン、ロキシー・ミュージックなどを連想するアート・ポップの遊び心、「湊町レヴュー」のような美しいジャパニーズ・ポップス（ジャパニーズ・ポップスの匂いを引きずるからこそ、ライダーズ・ファンはこの無造作で美的ではないユニゾン・コーラスを受け入れる）、「砂丘」かしぶち哲郎の卓越した作曲は、もっと個人に対して陽があたるべきであることを意識せずにはいられない。それぐらいかしぶち哲郎の曲は特別なものである。
ムーン・ライダーズがアグネス・チャンのバック・バンドを拒否していたら．．．
私はそうでなかったことで最大の恩恵を受けた音楽ファンの一人である。
ムーン・ライダーズ 「ムーン・ライダーズ」 （１９７７）
２０１２年 １月 ８日
政策の意図が伝わっていない 一方通行です．．．うん？ どこかで聞いたような．．
「デカワンコ 新春スペシャル」（１月７日 中京ＴＶ）。面白うございました。
綱吉の「生類憐みの令」に対して、「変な法律です。」の一言で一刀両断。笑いました。
多部ちゃん、上手すぎて普通にやってるように見えてしまうという屋敷 要レベルになってました。
脚本も（夢落ちも含め）上手いのですが、正月気分を見越した輪をかけてのグダグダぶりも素晴らしく、容赦ないパリ観光の親父趣味全開なロケにも嫌味な感じが出ていて、サンマルタン運河の閘門を遊覧船が通過するところなど、自分の場合はルネ・クレマンの「パリは霧にぬれて」（７１）なんか思い出してニヤっとしてしまうんですが、そういうのはもう相当な高齢でなければピンと来ますまい。そこはしかし、伴一彦ぐらいの脚本家であれば、フランス映画の一つや二つは思い浮かべながら書いているのに違いないので、意識せずにということは無いだろうと思う。観る側を置いてけぼりにするぐらいの独走はけっこう平気でやってのけますね。
「恋というものは 不思議なものなんだ」で始まる布施 明の歌「恋」は、１９６７年の曲。布施明は１９６５年デヴューですが、私は正直あまり知らなくて、７４年の「積木の部屋」ぐらいからしか記憶にない。「恋」という曲は知りませんでした。（たぶん吹越満（１９６５年生まれ）もあまり知らなかったんじゃないかと推測します）これをドラマ中でテーマのように扱って身内で盛り上がるという放置プレイぶりも私は好きでした。
２０１２年 １月 ４日
４２年前のかすかな記憶
う～ん。４２年前にもあった気がするのだが。
元塩公園
２０１２年 １月 ４日
何っ 内藤 誠がきている！？
世の中捨てたもんじゃない、というか何が起こるかわかりませんね。
内藤 誠監督の映画がDVDで発売されるんですよ。まあ「不良番長」シリーズとかの映画秘宝的なラインナップはわかります。そういうのはある一定の需要がある。
しかし、今回「十代 －恵子の場合－」（７９）が出てしまう。あんな暗い映画を見たがる人が今の時代にいるんでしょうか？ 当時の映画の中でもとりわけ暗くて地味な映画です。完全に消えていくタイプの筈。
しかも内藤 誠監督なんて、失礼ですが今まで注目されたことなど皆無（本当に失礼で済みません）だったんじゃないでしょうか？ ここへきて２５年ぶりに新作を撮ったり、本をタイミングよく出したりと急に来ているのが不思議です。
内藤 誠 『偏屈系映画図鑑』（キネマ旬報社）
鈴木則文が数年前から注目されだした時には「何でもアリか！？」なんて冷めた気分になったりしましたが、私は内藤 誠作品が甦ることの方が意義があり、面白いと思います。意外とインディペンデント性の高い監督で、低予算のハリボテでもとにかく作ってしまう人。その描いている世界が一般的に言えば傍流にあるので、平凡そうで伝わりにくい部分があり、わかり易さが足りないです。プログラム・ピクチャーではないかもしれません。しかし、わかり易さに徹した映画に対して、わかりにくさが欠点に映る映画は、違和感の中で生き続けている個人に対して決定的に共感を生む（少数の人間がたまたま反応する）一撃を持つ場合がある。「十代
－恵子の場合－」の救いのない暗さにはそれがあると思います。
DVD発売は５月とまだだいぶ先ですが、上の三つ、こんなのが出てしまうんです。 昭和ブームの一つなんですかねぇ。
２０１２年 １月 ３日
慰藉（いしゃ）
年末年始は毎年この時期に出る中野翠のコラム集を読んでます。いつの間にか恒例行事になってしまい、クリスマス過ぎるあたりになると本屋へ行った時は、新刊コーナーに出ていないかと探し始める。
去年は大型店ではなく、鉄道駅の側にある昔からある小さな書店で買いました。そこはちょっと癖のある本屋で、民俗誌や哲学系の書物なんかが妙にコーナーを陣取っていて、そんなのめったに売れるわけがないんだけど、何となく経営は続いている。小さい本屋では中野翠の新刊が置かれるようなことはなかなか無いだろうと思われるのだけど、ここならあるんじゃないかなと思ったら、やっぱりありました。
いつもと変わらず菊地信義の装禎だけど、今回はバックが飛行機の絵。タイトルは金魚だし、本文中にも特に飛行機は出てこないし、何で飛行機の絵なのか？ちょっと軍用機っぽくも見える。中野翠は“元気の出るようなヒコーキ”と書いているのだが、何だかちょっと不思議なデザインだなと思いました。
もう１０年以上は読んでいる。以前は読み終わったら売ってしまっていたので手元には無い。ここ数年のは取ってあるけど、どうだろう？ １０年後２０年後に読み返して発見がありそうかというと、．．．．かもしれない。時事的なことに反応はしている。事件とかあればそれについて何らかのことは書いてあるものの非常にパーソナルな反応で、しかも年々「そう思うのは私だけかもしれないけど．．」と断るケースが増えてきた。ちょっと弱気なんじゃないでしょうか。コラムならばもうちょっと歯切れがよくてもいいと思うし、エッセイならば時事ネタをもっとすっ飛ばしてマイナーネタに走ってもいいのでは。本人が言うところの中途半端な感じがもともと最初からのスタンスかもしれないが。
今回は特に元気が無かった気がします。自分を癒すのに走った感あり。痛く、重苦しい１年ではありましたからね。
一番面白かったのは、浮世絵の解釈について。癒しとは違う慰みものとしての「慰藉」という言葉。「不真面目なる江戸の藝術」と永井荷風の文章を引いている。写楽の役者絵が非常に異彩を放っている点で特異な芸術なのではなく、写楽ほど公衆の俳優を愛したる例証は無い。最も江戸の俳優を素直にとらえた描線であるとする永井荷風の評論に共感したわけだ。江戸時代の「遊びの文化」ともいうべき、不真面目を真面目に遊んだという、落語なんかも含まれる、ある意味相撲とかもそう。大滝詠一も相撲はスポーツじゃないとこの前しきりに力説していたけれども、西洋がもたらしたものではない、日本固有の文化・遊びをさすがに日本人は忘れ過ぎた。
今、そこに引っ掛かってる人がけっこういるかもしれない。呉 智英が出した『つぎはぎ仏教入門』を中野翠が紹介していたのも、同様に“忘れ過ぎている”（曲解がまかり通るようになる）ことへの批判につながっているのではないだろうか。
中野 翠 『金魚のひらひら』 （朝日新聞社）
２０１２年 １月 １日
ドリーム・ボールの完成に至らず 続編無し
「野球狂の詩」 （１９７７年 日 ） 加藤 彰 （ＤＶＤ）
あけまして おめでとうございます。 今年もよろしくお願いいたします。
２０１２年はもう少し映画について書く記事を増やしたいと思っているのですが、内容は深く静かに潜行するかもしれません。非常に微妙な位置取りをめざしているので、取り上げる映画が傑作だということではありません。何故こんな映画を見ているのか？ あとでうっすらとでも雰囲気が掴み取れるような場が作り出せたらいいなと思っております。 ジョルジュ・ロートネルに関する記事も一向に増えていかないので何とかせねば．．．
正月１本目に見た映画は「野球狂の詩」（７７）でした。まあ正月はたいていこういうちょっとぬるい映画から入っていきます。この映画を見るのは初めてではないので大体その緩さもわかってます。正月にはうってつけの映画。
ＮＥＴで軽く調べたところ、プロフェッショナル野球協約 第８３条で、不適格選手として「医学上男子ではないもの」という記載があり、かつて女性のプロ野球選手は認められていなかったそうです。１９９１年にその文章は削除され、現在では「コミッショナーが・・・不適当と認めた者を支配下選手とすることはできない」となっており、女性がプロ野球選手になれないとは書いていないようです。
「野球狂の詩」で水原勇気が出て来たのは１９７５年のことだそうなので（私は漫画読んでましたから、水原勇気が登場した時のことは覚えているのですが、確かにそれぐらいの頃だったかなぁ）、当時は明確に女性の選手は認められていなかった。水島新司は協約に対して批判の意味をこめて水原を描いたわけではないと思いますが、確か打球が怖くて逃げちゃうような選手だったという記憶があるのだけど、漫画ならば現実には有り得ないことも出来ると考えたことの方が作者にとっては大きかったんじゃないかな。
忘れがたき 小池朝雄
５０歳過ぎても現役投手！という岩田鉄五郎を主役とした「野球狂の詩」はそもそもがそういうリアリティの無さが平気で存在している漫画であり、その一方で野球にかける人生に関してはけっこうリアリズムなところが実は水島新司は描き方がしなやかだった。引退やトレード、選手契約や球団経営などの苦い部分を必要悪的に肯定の気持もにじませながら書くところもある。
映画も水原勇気登場の華やかさとは裏腹の野球人生の苦さみたいなものを織り込んでいる。
まるで草野球（草野球以下？）なみにやさぐれた風景で、とてもプロ野球を舞台にしているとは思えない映像（しかし、３０年以上前の、特にパ・リーグなんかはけっこうこの映画の野球場のような雰囲気はあったかもしれない）で、今のプロ野球の風景しか知らない人が見たら、そのしょぼさにたちまちげんなりしてしまうかもしれませんが、安っぽくてみすぼらしい邦画と切り捨てるのはちょっと違う。
全国のアマチュア野球を視察するスカウト（谷啓）のあてのない旅みたいな収穫なき疲労感や、トレードを言い渡された万年二軍選手がアパートに住む家族のところに帰る姿、故障で引退する選手を風呂場で背中を流す水原、試合中にも帽子にストロー刺して、隠した酒を飲んでいる投手など、侘びしい気分になってくるシーンが幾つもある。この映画はぐだぐだなユーモアを交えながら、静かにそういうところを見つめております。作り込み過ぎない程度に勝負エンターテイメント・ビジネスの裏側を見せている。
名脇役 藤岡重慶 ＆ 桑山正一 「悪役商会」 丹古母鬼馬二（たんこぼきばじ）
水原勇気を演じる木之内みどりの魅力も満載で、控えめながら最大限のサービス。映画監督が女優に淫する、そこが加藤彰監督は上品ですよね。引退する選手の背中を流してあげるシーンなんかしっとりしていて、かすかに艶やめかしい。
最大の見所シーンが水原勇気と南海ホークス・野村克也との対決。特に小細工も無く見せる。加藤彰は、岩田のへろへろボールに虫が止まるところを描写するっていう、時に漫画的なコマも作ってしまう監督ですが、ここぞという場面は造り込まずに割りと思い切って略してしまうところがあります。野村との対決ではツー・スリー（今はスリー・ツーですか）から最後に揺れるボールが出るかと思ったら何の工作もないカットでズバッといってしまう。人によってはそこが淡白に見えるかもしれませんが、私にはそれが引き際に対して綺麗さがあるように感じるんです。
